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省エネのキーテクノロジーとして期待されているパワー半導体は、電力変換素子として様々な電子機器に利用されています。次世代パワー半導体と呼ばれるワイドバンドギャップ半導体は、より省エネな電力変換素子の材料として注目されています。
そのワイドバンドギャップ半導体は高耐圧?大電流用途のSiCや高周波用途のGaNがありますが、これらの材料は研究段階から社会実装段階に入っています。その次の研究対象として、Ga2O3(酸化ガリウム)が注目されています。Ga2O3は様々な結晶構造を持つことが知られていますが、本研究室ではGaNの代わりとして期待されているε-Ga2O3の研究を進めています。
ε-Ga2O3はGaNを超えるバンドギャップ、自発分極を持ち、より高耐圧、低抵抗な超省エネデバイスが期待されています。また、ε-Ga2O3が持つ強誘電体特性は、GaNでは不可能であった新規デバイスの実現も期待されます。
通常GaNはノーマリーオン型と呼ばれるデバイスですが、パワーデバイスではノーマリーオン動作は故障時の安全性が担保できないため、対策が必須となっています。このε-Ga2O3は強誘電体であるため、その分極の方向を変えることができます。この分極を制御することで原理的にノーマリーオフ動作を行うことが可能となり、パワーデバイスの安全性を担保することができます。
ε-Ga2O3の成膜ではミストCVD法という手法を利用しています。ミストCVD法は、成膜したい材料の前駆体を溶解させた溶液を利用し、その溶液を噴霧したミストを原料とする成膜手法です。ミストの発生には超音波を利用しています。このミストは耳鼻科などで利用されているネブライザや加湿器などで利用されており、スイッチ一つで発生が可能なため、非常に簡便に利用できます。
ミストCVD法では、ミストの粒径が非常に小さいので、そのミストは加熱によって容易に気化します。その気化した原料はCVDプロセスを通して、基板上に目的の薄膜が成膜されることとなります。また、このミストは温度の高い基板上ではライデンフロスト現象と呼ばれる状態が発生するため、ミストが基板に直接接触しません。*
このライデンフロスト現象は熱したフライパンに水を垂らしたときに、水がフライパンを走り回る現象です。ライデンフロスト現象によりミストは、気体となって均一に成膜されます。
またミストCVD法は溶液にすることができれば、どのような原料も利用できるといった特徴があり、数多くの酸化物薄膜の成膜に成功しています。ミストCVD法の装置として、3つの成膜装置を開発しています。それぞれ成膜材料や用途に合わせて使い分けをしています。
* (参考)高知工科大学 川原村敏幸「高品質な機能性薄膜の作製を実現する非真空プロセスの開発」(外部リンク)
ε-Ga2O3の成膜では、半導体として利用可能な原子レベルで平坦な薄膜の成膜に成功しています。この段差はε-Ga2O3の結晶の半分のサイズであり、原子レベルで平坦であることを示しています。
また、この段差は0.5nm程度と小さな段差ですが、このような非常に小さな段差をより大きな数μmのミストを用いても形成することに成功しています。これはミストが直接基板上に接触するのではなく、気体で反応し成膜されていることを示しています。ε-Ga2O3でこのような原子レベルで平坦な膜を得られた結果は、パワーデバイス応用に向けて大きな進展をしたと言えます。
さらに、ミストCVD法の溶液にすることができればどのような材料も利用できるといった特徴を活かし、Gaの原料にAlやInの原料を一緒に混ぜることで混晶半導体の形成に成功しました。混晶半導体は化合物半導体の基盤技術であり、これらの結果もまたパワーデバイス応用に向けた大きな進展。
ミストCVD法は薄膜だけでなく、ナノ構造体の形成にも利用できます。図のようにミストCVD法で導電性のITOナノ構造体の形成に成功しました。
また、新しいナノ構造体形成技術に関する研究も進めており、ミストCVD法で形成した薄膜とSEMを使って、ナノサイズの文字を書くことに成功しています。
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