本学小谷准教授ら研究グループは、セリシンと呼ばれる保水力が極めて高いタンパク質だけでできた糸を吐くカイコの作出に成功し、本研究成果に係る論文が、米国科学アカデミー紀要に掲載されることになりました。
カイコは繭を作る際に、後部絹糸腺でフィブロインというタンパク質を、中部絹糸腺でセリシンと呼ばれるタンパク質を作ります。後部絹糸腺で作られたフィブロインは中部絹糸腺に送られ、フィブロインの周りがセリシンによってコートされ、前部絹糸腺に送られ、さらに吐糸口と呼ばれる所から糸が吐き出されます。繭から糸を引く際、アルカリ性のお湯で繭を煮ることでセリシンを溶かします。これにより、フィブロインからできたシルクを引くことができます。これが製糸です。セリシンは、非常に保水力が高く、化粧品の材料として使われています。しかし、繭をお湯で煮る際に、このセリシンが分解されてしまうために製糸の時に取り出されたセリシンは本来の保水力を失ってしまいます。
本学応用生物学系 小谷英治准教授、農研機構生物機能利用研究部門 瀬筒秀樹ユニット長、名古屋市立大学医学研究科分子毒性学分野 酒々井眞澄教授、静岡県立大学食品栄養環境科学研究院 若林敬二特任教授らは、モンシロチョウが持つピエリシンのホモログをカイコの後部絹糸腺で作らせることで、フィブロインを作らず、セリシンのみの糸を吐く遺伝子組換えカイコの作出に成功しました。これにより、温和な条件で、保水力に優れたセリシンを取り出すことができるようになりました。このセリシンは、ゲルやスポンジなどに加工しやすく、ES細胞やiPS細胞の培養やそれらの幹細胞から様々な細胞へ分化させるのにも優れた特性を持つことがわかりました。
本学は、昨年秋に京丹後市に完成した新シルク産業創造館でこの遺伝子組換えカイコの飼育を行い、得られた繭は化粧品材料や再生医療用材料に、蛹は様々な有用タンパク質を内包したPODSTM生産に利用する計画です。さらに、本学は、このセリシン繭を使った化粧品開発等に関する共同研究を株式会社日本触媒と実施しています。
【発表雑誌】
米国科学アカデミー紀要
http://www.pnas.org/
Title: “Bioengineered silkworms with butterfly cytotoxin-modified silk glands produce sericin cocoons with a utility for a new biomaterial”
Tracking #: 2017-03449RR
Authors: Otsuki et al.