所属 | 基盤科学系 教授 |
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氏名 | 深田 智 |
期間 | 令和6年3月4日-令和6年3月22日 |
滞在先 | バーミンガム大学(イギリス) |
University of Birmingham(以下UoB)は、ラッセルグループ(イギリスの24の研究型大学群)に属する大学で、100年以上の歴史がある。大学の中心にはオールド?ジョーと呼ばれる時計台があり、その周りには半円形の弧を描くようにレンガ造りの建物が並んでいる。時計台から北に歩いていくと緑豊かな広場が広がり、その両側には、図書館やTeaching and Learning Buildingなどの近代的な建物が違和感なく配置されている。広大なキャンパスには、各学部棟はもちろん、ホテルや植物園、美術館や博物館、サッカー場やテニスコート、カフェ、レストラン、さらにはパブなどもあり、古くからのものと新しいものとが調和する中、草木の緑と建物のレンガ色が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
UoBは、5つのカレッジとそれを構成する多様なスクールからなる。言語や哲学から、工学、情報学、バイオサイエンス、社会政策に至るまで、多様な分野の研究がなされ、分野を跨いでの交流や学外の研究者を交えてのセミナーや講演会も盛んに行われている。筆者もこれらのセミナーや講演会に参加し、分野はもちろん、国籍や文化的背景の異なる研究者たちと様々な角度から意見交換することができた。
また参加した2つの授業(3年生向けの専門の授業“Language and the Mind”と大学院修士課程の学生向けのTESOLの授業“Using Literature to Teach English Language”)では、専門性の高い内容が社会と関連づけて提示されることもあり、学生たちが自然に、大学で得た知見を社会でどう活かすか、考えられるようになっていた。加えて授業中、授業時間外を問わず、教員や友人たちと授業内容について議論する姿も見られ、自ら考え、視野を広げながら、それぞれの専門分野を追究していることが分かった。
設備の整った図書館は24時間365日開館していて、博士課程の学生とポスドク専用の空間もある。平日は座るところがないほどたくさんの学生が夕方遅くまで利用しており、土日も朝から図書館に来て勉学に励む学生の姿が見られた。1階にはカフェがあり、寒い日には温かなスープと温めてもらったパンを食べて、次の学習の英気を養うことができる。また、図書館以外にもTeaching and Learning Buildingには各階にオープンな自習スペースがあり、朝8時半から利用できるほか、筆者の受け入れ先教員であるLittlemore教授の研究室のあるFrankland Buildingにも学生たちが自習できるCommon Roomがあった。各建物の入り口や踊り場にもソファや椅子、テーブルなどが置かれていて、そのいずれの場所においてもWifi接続と電源接続が可能であった。
筆者が滞在した3月は、冬から春へと季節が大きく変わる時期で、1ヵ月の間にあちこちで次々と花が咲き始めた。天気は、夜から朝方にかけては雨、午前中は曇り、昼から青空、というように、一日の間に刻々と変わり、深い霧のたちこめる朝に大学に向ったこともあれば、星が綺麗に瞬く夜に大学を出たこともあった。植物園にあるカフェでLittlemore教授と夕日を浴びながらお茶をした際には、柔らかな日差しの中、ゆったりとした気分で研究の話をすることができた。
大学の傍のアパートを借りて住んでいたのだが、学生が多い地域であったせいか、スーパーはそこかしこにあって、買い物にはまったく困らなかった。ほぼ毎日、自炊用に生鮮食品(鶏肉、豚肉、ベーコン、サーモン、バター、牛乳、ヨーグルト、きゅうり、ナス、トマト、パプリカ、ブロッコリー、パスタ、パンなど)を買いに出かけたが、そのすべてがおいしく、また、学内や市内のレストランやカフェ等で食べる食事にも大満足であった。
工業都市であるバーミンガムは、その労働力の多くを移民に依存してきたという歴史的背景もあって、道を歩けば当然のように様々な国籍の人たちに出会う。筆者の滞在していたアパートにも、南アジア、アフリカ、ヨーロッパ出身と思われる人たちが住んでいた。異なる言語を母語とする人たちが英語を共通語として用い、コミュニケーションを図るのが日常で、どの人も、例えば「お先にどうぞ」という行為に対しては、必ず目を合わせて“Sorry”あるいは“Thank you”と一言言ってから通っていった。どんな些細なことであっても、伝えたいことがあればそれを言葉で表現するのはごく自然なことで、そこから人と人とのやりとりが始まっていく。
派遣先のUoBでも留学生は多く、広場やロビーなどでは、英語以外の言語が聞こえることもしばしばあった。聴覚障がいのある教職員とのコミュニケーションを円滑にするために、健聴者の教職員向けの特別手話講座も開かれているという。学生も教職員も、英語をコミュニケーションの第1手段としてはいるものの、それ以外の言語が用いられている現状を受け入れ、時に、歩み寄るために互いの言語を学ぶ。人が人とかかわり合う上での原点を思い出させてもらった気がする。
本派遣を通して筆者は、大学での教育?研究についてはもちろん、日常生活についても、これまでとは違う見地から考えるきっかけを得ることができた。本派遣で得た知見は今の筆者の生活に大きな影響を与えている。すでにLittlemore教授や同じくUoBのPark助教との共同研究も始まっている。UoBでの夢のような日々を胸に、教育?研究に邁進していきたいと思う。UoBへの派遣を受け入れて下さった本学に、そしてまた、訪問したいという筆者の思いを快く受け入れ、派遣後も様々な機会を与えて下さっているLittlemore教授に、加えて、筆者の滞在を事務的な面から支えて下さった本学とUoBのスタッフの皆様、及び、3週間の派遣を多方面から支えて下さったすべての皆様に感謝申し上げる。