令和5年度海外教育連携教員派遣報告
岩本 一将 助教 (イギリス?University College London)

所属 デザイン?建築学系 助教
氏名 岩本 一将
期間 令和5年8月27日-令和6年2月23日
滞在先 University College London(イギリス)

 2023年8月より半年間、私はイギリスのロンドンにあるUniversity College London (UCL)にAffiliate Academicとして滞在しました。UCLは建築分野でQS世界ランキングのトップを保持しており、研究と教育の両面において高く評価されている大学となります。歴史的には、1859年に「種の起源」をダーウィンが発表したことでも有名であり、伊藤博文や井上勝、山尾庸三といった日本の近代化を支えた人々が学んだ場所としても知られています。UCLの本部校舎はロンドン中心部に位置しており、ユーストン駅やハリーポッターの駅舎としても有名なキングスクロス駅から徒歩5分程度で通うことができる好立地となります。ただし、世界中から様々な人や物、技術が集まるロンドンでは、近年多くのものが物価高の影響を受けています。例として、比較的安く食べることのできる大学の食堂でも約1,200円(6.5?)あたりが1食の相場であり、日本の学食に慣れている身としては驚きが大きかったです。最も高騰しているのは住宅費だと言われており、体感としては日本の2.5倍程度の家賃が必要となります。


UCLのメインキャンパス

天気が良い日のキャンパスはとても心地よかったです

左:UCLのメインキャンパス、右:天気が良い日のキャンパスはとても心地よかったです


Uキングス?クロス駅

食堂のランチ(1,200円くらい)

左:キングス?クロス駅、右:食堂のランチ(1,200円くらい)

 私が滞在したのは建築学部(The Bartlett)のThe Bartlett School of Planning(BSP)という部局であり、同学部には他にもThe Bartlett School of ArchitectureやThe Bartlett Centre for Advanced Spatial Analysis、The Bartlett Development Planning Unitなど全部で13個の部局が存在します。BSPは都市空間の計画や設計に関する専門家が集まる部局であり、公共空間を研究対象とする私はMatthew Carmona教授に受け入れていただきました。滞在中は他のPostdoctoral ResearcherやAffiliate Academicと同じ部屋を割り当てられ、研究領域は異なる同年代の専門家と会話することができたのはとてもよい経験でした。ただ2020年のパンデミック以降は在宅ワークが基本となっている研究者も多く、同室の仲間といえども2週間以上にわたって顔を合わせる機会のないことも多々ありました。滞在中はUCLの講義や演習、研究会へ参加するとともに、ロンドンの都市空間を対象とした研究にも取り組むことができました。UCLの大学院では講義の受講前に必読書などが指定されており、講義によっては参加前に300ページ以上の専門書を理解することが求められておりました。当然ながら講義もそれらを把握していることを前提として進められるため、内容の専門性がとても高いと感じました。また、イギリスでは一般的に修士号の教育カリキュラムが1年で修了するため、日本と比較しますとハードなスケジュールで講義?演習?修士論文を進めることとなります。

 私が参加した「Urban design:place making」という講義は、都市の計画や設計に関する座学とグループ演習が一体化しており、毎週木曜日に「座学1コマ+演習1コマ」で同時に行われるアクティブラーニング型の講義となっていました。演習の対象地は各グループごとに異なる場所が割り当てられており、実際に開発が進んでいる場所を指定されることも多く、ロンドンが現在どのような背景と意図、そして歴史の延長線上のもとで都市開発を進めているのかを把握することも重要視されている点がとても興味深く、本校の演習課題などにも是非取り入れたいと思う視点が多く含まれていました。

 近年のロンドンでは住宅の供給不足や交通渋滞およびそれに伴う大気汚染などが重要な社会問題として認識されております。そのため、現在は公共住宅の供給や都市内の交通再配分による歩行者空間の拡張などがロンドンの至る所で積極的に進められております。常に開発事業が進行している印象の強いロンドンではありますが、歩行者のための広場空間や緑地空間が豊富に残されている点も都市の魅力を向上させております。ロンドンの自治体職員の方とお話する機会があった際にも、地域住民からの要望には緑地に関する意見が非常に多く、都市空間における憩いの場、交流の場の需要が日本と比較してもはるかに強いと感じました。公共空間を研究対象とする身としては、このように実際に住んでみて初めて感じることのできる空間の使い方や住民の需要を知ることのできる良い機会であるとともに、歴史や文化の異なる国においてどのような空間が創出されているのかを学ぶことができた点は、研究者として非常に良い経験となりました。

 またロンドン滞在中、エベネザー?ハワードが提唱した田園都市の実現モデルとして知られるLetchworth Garden CityとWelwyn Garden Cityへ訪れる機会も得ることができました。自身が学生の頃に学んだ都市設計の実例を10年越しで目にすることができたことは、とても素晴らしい経験となりました。そのほかにも、オックスフォードやケンブリッジなど、大学の街として知られる都市へと簡単にアクセスできる点も、ロンドンに住む利点といえます。


Welwyn Garden City

ケンブリッジ大学とニュートンのリンゴの木

左:Welwyn Garden City、右:ケンブリッジ大学とニュートンのリンゴの木

 今回のSGU業務につきまして、派遣をご支援くださった本学国際課の皆様、渡航を推薦くださいました金尾伊織教授、そして渡航を快く送り出してくださるとともに、不在中の業務に関しまして多大なサポートをしてくださいました同研究グループの阪田弘一教授、高木真人准教授には心より感謝申し上げます。またUCLの滞在を受け入れてくださり、教育と研究において素晴らしい機会を与えてくださったMatthew Carmona教授、UCL滞在中にサポートくださったBSPスタッフの皆様にもお礼申し上げます。最後に、ロンドン滞在を支えてくださった家族に感謝を申し上げて、結びとさせていただきます。

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