令和4年度 大学院工芸科学研究科 入学宣誓式(秋季)
学長祝辞

 京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科に、きょうから新しく学生として加わる新入生諸君、ご入学おめでとうございます。本日ここに入学宣誓式を迎えられたのは、大学院博士前期課程16名、博士後期課程18名です。
 2019年末に思いもかけず世界中の人類に恐怖と混乱を引き起こした足球比分直播,雷速体育感染症との戦いはまだ終わっておらず、皆さんがきょうを迎えるまでにも多くの困難なことがあったことと思います。この式も通常に比して少し簡略化したかたちで挙行しています。

 京都工芸繊維大学の大学院は、1965年に工芸学研究科が、続いて1966年に繊維学研究科が修士課程まで開設されました。1988年に博士課程までを有する工芸科学研究科になりました。大学院設置からはもうすぐ60年、工芸科学研究科となってからは来年で35年になります。大学の設置は1949年、前身校である京都高等工芸学校が1902年、京都蚕業講習所が1899年の設置ですから、120年を越える歴史を有しています。
 この間、本学は、明治以後の日本の産業近代化に大いに貢献してきました。特に、大学となってからは戦後の日本の復興、経済発展に必要な工学系技術者を確実に輩出し続け、国立大学としての役割を果たしてきました。

 ところで、今私たち人類および地球はこれまでにない重大な課題に直面していることを皆さんも感じておられるでしょう。医療技術はずいぶん進みましたが、このコロナウイルスのみならず、まだまだ未知の感染症の発生や、現時点でも原因も治療法も未解明な疾病もあります。また全世界は、温暖化に起因すると思われる異常気象に見舞われ、各地に災害を引き起こしています。社会においては、これまでの経済活動や社会活動のひずみが看過できないほどの格差を引き起こし、人々の分断や世界各地の紛争の誘因になっています。
 こうした対象や階層も異なる課題に工科系の技術者、研究者として何をどう学び、どう研究していけばよいのでしょう。皆さんがこれまでに学んでこられた、既存の工科系の学問体系は今後も有用だと思いますが、それで十分でしょうか。何より、これからの未来、地球、人類はどうなっていくのでしょう。われわれは未来に向けた持続可能な社会を担保するために科学技術、工学の担い手として、何とか貢献したいものです。

 果たして、未来はどうなるのでしょう。

 経営学者のピーター?ドラッカー(Peter Drucker)は、

    The best way to predict the future is to create it.

と言っています。これは、リンカーンが言ったという説もあります。われわれの未来は受動的なものではなく、能動的に創造していくものです。建築家でもあり、思想家でもあったバックミンスター?フラー(Buckminster Fuller)という人は、20世紀の半ばに、

    The best way to predict the future is to design it.

と言っています。デザイン思考です。創造しようとする未来は、具体的にデザインされなければなりません。本学はデザイン思考を取り入れた課題解決型授業を大学院で開講しています。Design-centric Engineering Program、dCEPです。そして、次に必要となるのは、

    The best way to predict the future is to invent it.

です。これはパソコンの父と呼ばれるアラン?ケイ(Alan Kay)によるものです。工学系に相応しい格言になっているではありませんか。
 われわれは未来を創る意志をもち、それを設計し、そのために必要なことは発明する。混沌として、先が見えない今こそ、未来をつくる覚悟をもって生きていきたいものです。

 本学は、今、「KYOTO AGORA」という取り組みを始めています。それを担う機関を「CPF、Center for the Possible Futures」と呼んでいます。そこでは、専門分野の異なる教員のディスカッションが行われ、これまでにない視野でありうる複数の未来を空想する活動を行っています。そしてその未来に向けた課題の構築が行われています。これから必要なことは、広い視野で異なる分野の人々と協議、協働を心がけていくことだと思います。
 皆さんも、自分自身の専門分野についてはさらに磨きをかけつつ、様々な立場で、ご自身の分野を越えて多様な人々と協議、協働を心がけ、真に、人類の幸福のため、直面する様々な課題を的確に解決していって欲しいと思います。
 頑張ってください。

 以上をもちまして、簡単ではございますが、歓迎の告辞といたします。

令和4年9月26日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴