令和5年度 工芸科学部?大学院工芸科学研究科 学位記授与式 学長祝辞

令和5年度 学位記授与式 祝辞

工芸科学部大学院博士前期課程大学院博士後期課程での本学学長からの祝辞を掲載しています。
各祝辞の冒頭に、当日の動画へのリンクも掲載しています。

 

工芸科学部 学位記授与式 祝辞

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 本日、京都工芸繊維大学工芸科学部を卒業され、ディプロマ?ポリシーに基づくTECH LEADERとして、工学士あるいは農学士の学位を取得された皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。また、皆さんの就学を支援いただいた関係者の方々、ならびに様々なかたちで指導、助言をいただいた方々に学長として深甚なる感謝を申し上げます。
 大半の皆さんが入学された令和2年は、足球比分直播,雷速体育感染症が猛威をふるい始めた年でした。感染力が強く、死者も出るような状況で有効な対策も見えない中、感染拡大を少しでも抑えるために、手探り状態で様々な行動制限が実施されました。これまでに経験したことのない全学的なオンライン授業や課外活動の制限など、大変な事態となりました。ワクチンが行き渡り、感染拡大もおさまってきたため、昨年5月には感染症法上の位置づけが5類になりました。ようやくコロナ前の生活がほぼ送れるようになったことは歓迎すべきことですが、学生生活の大半を様々な行動制限の中で過ごさざるを得なかった皆さんは、十分に満足できる学部時代ではなかったと思います。しかし、このコロナ禍において、様々な場面でITの活用が浸透し、それまでとは異なった学びや働き方が取り入れられてきました。皆さんは図らずもそうした変化を直接的に体験することになりました。その経験をこれからの人生に是非前向きに活かすよう心がけてください。

 さて、皆さんは、本日、本学が人材育成の目標としているTECH LEADERとなりうる人材となられました。改めて確認しますが、TECH LEADERとは、幅広い教養と高い倫理性を有し、自らの構想力と遂行力、リーダーシップによって、21世紀の産業、社会、文化に貢献できる国際的な理工系高度専門技術者のことで、本学が定めたものです。そして、「工繊コンピテンシー」と呼ぶ「専門力」「リーダーシップ」「外国語運用能力」および「個の確立」の4つを本学卒業生が有すべき能力として掲げています。コンピテンシーとは、知識だけでなくスキル、行動も含んだ能力を言います。皆さんは、専門技術者として第一段階レベルを修得され、他のコンピテンシーについてもそれぞれのレベルで身につけられた実感があると思います。
 ここでは、TECH LEADERの肝である「専門力」ということについて考えてみたいと思います。専門力を有する人を英語で言うと、Specialist、ExpertあるいはProfessionalが当たります。いずれも一つの職業か分野に精通した専門家ですが、強いて区別すると、Specialistは専門知識をもつ人を指します。次にExpertです。専門知識をもっているだけでなく、その知識と経験が豊富な人であり、熟達者、達人のことです。経験豊富といっても、単に、長年やってきたというだけでは十分ではないように思えます。経験が知識化され、ノウハウとして身に付いている人でしょう。そしてProfessionalですが、こちらは専門の職業人ということになります。知的職業に従事する人や技術専門家としての職業人です。対義語はamateurですが、amateurでも玄人はだしの実力者はおられます。Professionalと呼ばれる人は、職業ですから、当然、専門知識やスキルを常に磨き、自己研鑽を怠らず、誰が見ても専門家として信用?信頼できる人です。
 皆さんは、学部における各専門課程を終え、専門分野について基本知識をもつSpecialistとして大学院に進学あるいは就職して社会に出られることになります。しかし、Specialistと自負するには、まだまだ経験は足りていません。また、自分なりの強みがこれこれであると言えるだけのSpecialistになり得ているか、と問われると、まだまだです、と答えられることと思います。さらに皆さんも感じておられるようにAIの急速な発展は、単に専門知識があるとか、単に経験があるというだけでは、Specialistとして胸をはることはできないと思います。
 もちろん専門知識に意味がないということではありません。専門知識の正確な理解があって、それをベースにした課題対応経験やプロジェクトへの挑戦経験を積むことが専門力を深く豊かにしていきます。さらに自分の専門以外への俯瞰的視野と敬意をもって、他者と協働作業等をする環境で自分の専門力を発揮する、そんな姿勢が重要です。そうした姿勢こそが真のTECH LEADERとして育っていく過程なのだと思います。
 今後も学士というSpecialistにとどまることなく、さらに「専門力」の充実に励んでいただき、Professionalと呼ばれるような確固たる専門力を築き、TECH LEADERと他者が認めるレベルに成長してください。そして、これからの日本、世界の科学、産業、文化に大いに貢献されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。
 頑張ってください、京都工芸繊維大学は皆さんを応援しています。

令和6年3月25日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴

大学院工芸科学研究科博士前期課程 学位記授与式 祝辞

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 本日、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士前期課程を修了され、修士の学位を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。

 皆さんは、工学修士あるいは農学修士の学位を得られたのですが、本学の定めた修士レベルの高度専門技術者「TECH LEADER」にもなられました。多くの方は修士号を有するテック?リーダー人材として社会に出ていかれます。また、博士後期課程に進み、さらにワンランク上の博士号を有するテック?リーダーを目指される方もおられると思います。これまでもテック?リーダーについては履修要項等を通じてご存じかと思いますが、博士前期課程の修了にあたってもう一度確認しておきます。
 テック?リーダーとは、「専門分野の知識?技能を基盤として、グローバルな現場でリーダーシップを発揮して様々な社会課題に取り組むプロジェクトを成功に導くことのできる人材」のことを指します。本日のこの式において、改めてしっかりと自覚してください。

 さて、今から10年あまり前、2013年にMITのメデイアラボでAI時代に求められる9つの基本原則が提唱されました。その翌年の学部1回生の「工芸科学基礎」、当時は「KIT入門」という授業で、この基本原則の一つを紹介しました。それは「Compasses over Maps」という、地図よりもコンパス、それも複数のコンパスを持て、と言っています。
 このときのAIはAfter Internetで、Artificial Intelligence 人工知能のことではありません。BIすなわちBefore Internet時代とAI時代で求められるものが大きく変わっていることを9原則として示したしものです。「Compasses over Maps」の他の8つは、「Resilience over Strength」強さよりも立ち直る力、「Pull over Push」押すよりも引き寄せよ、「Risk over Safety」安全よりリスクを取れ、「Systems over Objects」単体よりもシステム、「Practice over Theory」理論よりも実践、「Disobedience over Compliance」服従?順守よりも反抗、「Emergence over Authority」権威よりも現場、そして「Learning over Education」教育よりも学び、です。

 現在、地球上では様々な課題が山積しています。それらの課題は複雑で多様性に溢れ絡み合っています。また、不確実性が高く、さらに変化のスピードは益々早くなっています。9原則の教訓は今も生きていると思います。しかし、現在皆さんは、AIはけっしてAfter Internetを指すのではなく、Artificial Intelligence のことであると認識されていると思います。

 総務省によると、人工知能、AIの研究は1950年代から始まっています。1950年代後半から1960年代には、コンピュータによる「推論」や「探索」が可能となり、特定の問題、例えば迷路の解き方や定理の証明などに対して解を提示できるようになり、機械翻訳が特に注力されました。1980年代になると、コンピュータが推論するために必要な様々な情報を、コンピュータが認識できる形で記述した「知識」を与える人工知能、AIが実用可能な水準となり、専門分野の知識を取り込み推論でき、その分野の専門家のように振る舞うエキスパートシステムが多数登場しました。この当時は、必要な情報を人が入力する必要があったのです。そして、2000年代からは、「ビッグデータ」と呼ばれる大量のデータを用いることでAI自身が知識を獲得する「機械学習」が実用化され、さらに知識を定義する要素を自ら習得するディープラーニングが登場し、ChatGPTなどの生成AIと呼ばれる新しい技術が急速に広がっています。

 修士号を有するテック?リーダーにとって、生成AIはこれからの技術開発、研究にとって無視できないものとなると思います。インターネットの前後以上に、「生成AIのなかった世界」と「生成AIのある世界」は想像を超えて社会変革が起こる可能性があります。これからの社会が人類にとってユートピアに向かっていくのか、ディストピアになってしまうのかは、われわれに掛かっています。

 もう一度言いますが、本日、修士の学位を取得された皆さんは、テック?リーダーの有資格者です。テック?リーダーの自覚を持ち、各自が直面されるプロジェクトでは、「ワクワクする」、「元気になる」といったような思考を心がけてください。本学が取り組んでいるデザイン思考やアート思考が役立つこともあると思います。そして、人類がディストピアに向かうことがないよう、少しでもユートピアへの創造に皆さんが貢献されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。

令和6年3月25日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴

大学院工芸科学研究科博士後期課程 学位記授与式 祝辞

式典の様子を録画した動画はこちら

 本日、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士後期課程を修了され、学術博士あるいは工学博士の学位を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。
 
 本日は、課程修了による博士1108号から1128号までの学位を授与いたしました。皆さんから提出いただいた学位論文は、本学の知的財産に加えられ、学位論文は広く公開されます。そして、それぞれの分野において今後の技術革新や産業創出に活用され、また科学の発展や文化の深化に貢献することが期待されます。足球比分直播,雷速体育感染症が世界的に蔓延したこの難しい時期に、研究を粘り強く進め、論文をまとめられた皆さんの努力に対し、改めて心より賛辞を贈りたいと思います。そして指導された教員の方々、これまで支えてこられたご家族?関係者の方々にも、感謝の意を表します。

 皆さんはそれぞれ専門分野の研究で、博士号を取得されたのですが、本学が人材育成目標としている高度専門技術者「TECH LEADER」にもなられたのです。工芸科学研究科の学位授与の方針すなわちディプロマ?ポリシーにおいて、「21世紀の産業と文化を創出する国際的高度専門技術者、研究者等の高度専門職業人となり得る人材であると認められれば、博士前期課程では「修士」、博士後期課程では「博士」の学位を授与する」と記されています。テック?リーダーは本学が定めた名称ですが、この国際的高度専門技術者、研究者のことです。博士の皆さんは、「自立して研究活動が行え、国際舞台で活躍できる開発技術者、研究者であるテック?リーダーなのです。皆さんは、研究や技術開発プロジェクトを牽引し得る人材になられたのです。これまでに身につけてこられた研究の進め方、困難な問題に直面したときの解決への探索の仕方を経験し、課題に挑戦する意思と解決へのプロセスを計画し遂行することこそが、博士であることの価値であり、証です。現在、地球上では様々な課題が山積しています。それらの課題は複雑で多様性に溢れ絡み合っています。また、不確実性が高く、さらに変化のスピードは益々早くなっています。博士テック?リーダーである皆さんへの期待は、否応なく高まっています。頑張ってください。

 さて、足球比分直播,雷速体育の感染拡大によって行動制限が課されている間、IT技術が、ゲームや携帯電話、インターネットなどだけでなく、生活を守り、社会を支えるために不可欠な基盤技術であることを社会全体が知ることになりました。皆さんも学会発表や研究会報告、また国際会議なども、オンラインでの参加を経験されたのではないでしょうか。この一年ようやく対面での会議も行われるようになってきましたが、全てが元に戻ることはないでしょう。これからはオンラインと対面の併用や、目的に応じた開催方式が採られることになると思います。

 現在、人類は産業革命以後の社会システムの価値体系が、大きく変革される時代に入っていると思います。世界は確実にデジタルトランスフォーメーション、DXが進んでいます。DXがあらゆる技術においてイノベーションを誘発、推進し、格差社会、気候変動などのグレートリセットを起こすであろうという論もあります。特に、皆さんもご存じのように生成AIが様々な場面で広がっています。生成AIはこれからの技術開発、研究にとって無視できないものとなると思います。インターネットの前後以上に、「生成AIのなかった世界」と「生成AIのある世界」は想像を超えて社会変革が起こる可能性があります。これからの社会が人類にとってユートピアに向かっていくのか、ディストピアになってしまうのかは、われわれに掛かっています。

 博士の学位を得られたことは賞賛に値することです。大いに喜び、誇りに思ってください。そして新たなステージに立ち、今までと違う景色を見ていることを自覚して、挑戦へのスタートをきってください。与えられて業務にあたるのではなく、望ましい未来を実現するために、博士学位を持つ者として「自分に何が問われていて、何をなすべきか」ということを常に意識し、それぞれの場所で活躍していただきたいと思います。
 
 また、本学を離れられても、時には本学にも目を向けていただき、われわれの活動に対して、博士技術者、博士研究者としてのご意見、ご協力をいただけることを期待しています。
 最後に、これからの世界の科学?産業?文化に大いに貢献されますこと、そして、人類がディストピアに向かうことがないよう、少しでもユートピアへの創造に皆さんが貢献されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。

令和6年3月25日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴