京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科に、新しく学生として加わる新入生諸君、ご入学おめでとうございます。本日ここに入学宣誓式を迎えられたのは、大学院博士前期課程18名、博士後期課程20名です。皆さんは、それぞれ修士、博士の学位取得を目指して新たな気持ちで、これまで以上に研究?勉学に励まれることと思います。各自が、大いに考え、大いに学び、また他者と大いに討議して成果を上げられ、本学大学院での時間が充実したものとなることを学長として心より願っております。
本学大学院工芸科学研究科では、科学技術の進展や社会の要請に応えるべく21世紀の産業と文化を創出する国際的理工科系高度専門技術者や研究者等の高度専門職業人の養成を目指しています。特に、本学では国際的理工科系高度専門技術者をTECH LEADERと呼び、学部段階から大学院まで一貫して、その育成に取り組んでいます。
TECH LEADERとは、「専門分野の知識?技能を基盤として、グローバルな現場でリーダーシップを発揮して様々な社会課題に取り組むプロジェクトを成功に導くことのできる人材」のことを言いますが、博士前期課程では、学部段階より高度な専門的知識を有し、それらを柔軟に応用でき、かつ実践的な外国語運用能力を備えた人材の養成を目標としており、博士後期課程では、創造性豊かな優れた研究?開発能力を有する人材、国際経験を有する人材の養成を目標としています。それらの目標を達成するために、各専攻の教育プログラムは構成されています。また、大学院では原則クォーター制で授業が行われており、留学や企業等へのインターンシップを行うことも出来ます。さらに、専攻横断でプロジェクトに取り組むDesign-centric Engineering Program (dCEP)という授業科目も提供されています。皆さんは、指導教員や専攻長等とよく相談し、是非、修士あるいは博士として、本学の目標に適う人材となっていただきたいと思います。
さらに、千年を超えて都であった京都にある本学は、人間の営みにおける歴史、文化の重要性も大切にしており、近年、「京都思考」という概念を構築しています。京都の文化は、技術?品質を備える匠のものづくりと信頼関係により培われてきました。一方で、単に技を継承するだけでなく、イノベーティブな挑戦を続け、新しい価値を創造し続けています。本学は、この京都の地が育んできた信用ベースの心意気と創造的挑戦心を「京都思考」と表しています。京都を生活の場とし、文化財や工芸品などに積極的に触れることで何某かの感性が培われることでしょう。また本学美術工芸資料館には、本学の前身校からの工芸や繊維、デザインなどに関する資料があり、企画展示が行われています。勉学や研究の合間に気軽に入ってみてください。そして、「京都思考」も意識しつつ研究に励んでください。
さて私たちは、今、地球温暖化や足球比分直播,雷速体育感染症の世界的な広がり、そして人間というものに起因する格差や分断、紛争というような様々な課題に直面しています。例えば、地球温暖化に対しては、まずはその原因の一つと考えられるCO2発生の削減と増加を抑える、ゼロカーボンあるいはカーボンニュートラル等への技術開発に多くの研究者、技術者が取り組んでいます。様々な課題に特効薬というものは、なかなか見つからないものですが、人類は出来ることを為すことで歴史を積み重ねてきました。これからも直面する課題を分析し、科学的?技術的に取り組んで対応策を提供することが重要です。皆さんは、TECH LEADERや研究者として、各自が対応可能な課題に果敢に挑み、解決策を見出す役割を求められます。ここにいる間に自分の拠って立つところ、礎をしっかり築いてください。
また現在は、人類発展の方向を再考し、これまでの経済性や効率性などを求める価値観とは少し異なる、持続性や多様性にも視点を拡げた新たな価値構築が問われている時期にあると思います。Well-beingという、ある人にとって本質的に価値のある状態の概念も重視されています。こうした価値創造には、専門思考に囚われない広汎な思考が必要です。しかし、一人のTECH LEADERあるいは研究者が、深く広い思考を為すことは必ずしも得策ではありません。むしろ他者との意見交換こそが重要です。
本学では、今、「KYOTO AGORA」という取り組みを始めています。それを担う機関を「CPF、Center for the Possible Futures」と呼んでいます。そこでは、専門分野の異なる教員のディスカッションが行われ、これまでにない視野でありうる複数の未来を妄想する活動を行っています。そして、その未来に向けた課題の構築が行われています。これから必要なことは、広い視野で異なる分野の人々と協議、協働を心がけていくことだと思います。
皆さんも、自分自身の専門分野についてはさらに磨きをかけつつ、様々な立場で、ご自身の分野を越えて多様な人々と協議、協働を心がけ、真に、人類の幸福のため、直面する様々な課題を的確に解決していって欲しいと思います。
頑張ってください。
以上をもちまして、簡単ではございますが、歓迎の告辞といたします。
令和5年9月25日
京都工芸繊維大学長
森迫 清貴