平成27年度海外教育連携教員派遣報告
田中知成 助教 (オックスフォード大学)

所属 繊維学系
氏名?職名 田中知成 助教
専門分野 合成化学、高分子化学、糖鎖工学
期間 平成27年6月-平成28年5月
滞在先 オックスフォード大学化学科

オックスフォード大学

写真1. (上?左右) クライストチャーチ、(下左) ラドクリフキャメラ、(下中) トリニティカレッジ、(下右) リンカーンカレッジ

 ロンドンから北西に80キロメートル程の地に位置しているオックスフォード (Oxford) は、ox (雄牛) が渡れるほどの ford (浅瀬) となっていたことが地名の由来と言われている。12世紀頃から世界の学問の中心地として発展し、現在、オックスフォード大学では約22,000人の学生が学んでいる。在籍学生の60%がイギリス出身、15%はEU圏内出身だが、25%はEU圏外の出身者である。今年10月に発表された英教育専門誌「タイムズ?ハイヤー?エデュケーション」による「世界大学ランキング」では、世界第2位にランキングされ(ランキングの評価方法には様々な意見があるとは思うが)、名実ともに世界の大学のトップクラスに位置していることに間違いはない。ちなみに日本人学生は100人ほど在籍しているが、アジアの他国、中国(920人(香港、マカオを含む))、インド(373人)、シンガポール(260人)、韓国(160人)と比べると少ない。

 オックスフォード大学には40余りのカレッジ (college) と呼ばれる学寮があり、学科 (department) と共に教育を行っている。このカレッジ制度は、同じくイギリスのケンブリッジ大学にも存在する独特の制度であり、全ての学生はいずれかのカレッジに所属し、寝食を共にしながら学ぶというシステムである。オックスフォードの町の中心は、趣きの異なるカレッジが所狭しに集まっている (写真1)。映画ハリーポッターの魔法学校の食堂のモデルとなったホールがあるクライストチャーチや、現皇太子が留学時在籍していたマートンカレッジ、広い芝生のガーデンがあるトリニティカレッジ、緑に覆われた建物があるリンカーンカレッジなど、訪れると感じる印象は様々であるが、いずれのカレッジも学生の生活と勉学のための環境が整えられていることに感銘する。このようなカレッジ群の中を徒歩で通勤する毎日は、どの道を通っても魅力的であり、未だに楽しい。

所属している研究室の様子

写真2. (左上) 研究室の入っている建物、(左下) 居室、 (右下) 実験室、(右上) 研究室の壁に飾られた雑誌の表紙に採用された論文

 私の所属している研究室は、化学科 (Department of Chemistry) のBenjamin G. Davis 教授の研究室である。周囲の石造りの建物とは異なり、Chemistry Research Laboratory (CRL) と呼ばれるガラス張りの近代的な建物内に研究室がある (写真2左上)。現在、約35人が所属しており、その内約20人がドクターコースの学生、残りがポスドクである。研究室内ではイギリス出身者は少数であり、ヨーロッパ各国、アメリカ、ニュージーランドなど国際色豊かである。アジアからも中国(香港を含む)、タイ、インド、バングラデシュ、パキスタン出身者が在籍している。同じフロアーには3つの研究室が同居しており、居室は研究室毎に壁で区切られることなくオープンで見通しが良い (写真2左下)。実験室は研究室毎に分かれているものの、大型の分析機器以外にも共有している機器は非常に多い。小さな実験器具や試薬の貸し借りも頻繁である。実験機器の充実はある程度予想できたが、機器のメンテナンスや教育を行う専属スタッフの充実に感心した。各機器に専属スタッフが配置されており、保守?点検やトラブル対応はもちろん、新入者が加わる度に(ポスドクの加入はかなり頻繁である)教育を実施するなど、スタッフの充実も研究を支える大きな力となっている。ドラフトやエバポレーターが不調の時にも、スタッフがメンテナンスに来てくれる。実験機器の専門性が高まる昨今において、ハード面だけでなくソフト面での充実も、世界中から研究者が集まって来る理由のひとつだと感じた。

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写真3. ドクター学生のポスター発表会

 研究室メンバーは皆、ほとんどの時間を研究(=実験)に費やしている。加えて、火曜日は朝8時半、木曜日は朝8時から(早い!)、研究報告会、論文紹介、メンバーが作成した化学や生物の問題を解く時間など、全員が朝一から集まり、研究漬けの毎日である。ドクターコースの学生は、1年目終了時にはポスター発表会、2年目終了時には口頭発表会が学科内で開催されるなど、研究発表を通した教育?交流も充実している (写真3)。この発表会にはスポンサー企業が付いていて軽食付であり、ポスター賞も与えられる。また、日本では通常、教員や学生などが行う会場準備 (例えば、ポスターボードの設置) を大学スタッフが行うなど、教員と学生が研究に専念できる環境を大学全体としてサポートしてくれている印象を受けた。このような分業には賛否両論あるかもしれないが、研究室メンバーは皆、手厚いサポートに応えるべく、ほとんどの時間を研究に費やし、切磋琢磨していることに間違いはない。

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写真4. Roger Y. Tsien教授講演会

 学科内で開催される講演会も非常に多く、先日は、2008年ノーベル化学賞 (緑色蛍光タンパク質の発見と開発) の一人、Roger Y. Tsien教授の講演会が開催されるなど (写真4)、全て参加していると自分の実験が進められないくらいである。とは言え、研究のことしか頭にないというわけではなく、毎日、午後3時半から30分ほどカフェテリアでお茶の時間があり、楽しく談笑する。誕生日のお祝いにケーキを買って来て(自分で買って来て皆に振る舞うのがスタンダード)、皆で食べることもしばしばである。研究生活のメリハリの付け方が絶妙であり、夏にはイギリス特有 (特にオックスフォードとケンブリッジ) の平底の小舟であるパントに乗りに行ったり、夕方には近くのパブに飲みに行ったりと、皆、楽しく研究と遊びを両立している (写真5)。私自身も彼らが非常に親切にしてくれるおかげで、充実した研究生活を過ごすことができている。

写真5. (左) 研究室メンバーでパントに乗りに. (右) 息抜きはパブへ

おわりに

 2015年6月に留学してから5ヶ月が過ぎ、間もなくオックスフォードでの生活も折り返しを迎えようとしている。スーパーグローバル大学創成支援事業により1年間の留学機会を頂いたことに感謝すると共に、残りの期間を有意義に過ごし、無事に帰国の日を迎えたいと思う。