所属 | 人事労務課付 |
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氏名?職名 | 三好智也 |
期間 | 平成27年7月1日-平成28年3月20日 |
派遣先 | カリフォルニア大学サンディエゴ校 |
私が研修を行っている大学は、カリフォルニア州内に10校あるUniversity of Californiaのうち、メキシコ国境沿いに位置するサンディエゴ市内にあるUCSDです。サンディエゴは年中快適な気温として有名であり、実際に夏を過ごしましたが、30度を超えることはあっても、湿気が少なく、過ごしやすかったです。また、カリフォルニアで2番目に人口が多いこともあり、町ではあらゆる人種の方を見かけます。UCSDはライフサイエンス分野が特に強く、ノーベル賞を受賞した教員を有しているほかNational Health Centerの施設もあり、研究施設が充実しています。また、学際的研究も充実しています。キャンパスは広大であり、敷地内を移動するバスがあるほどです。
私の勤務している部署はSchool of Global Policy and Strategy(GPS)という大学院研究科の下にあるGlobal Leadership Institute(GLI)です。GPSは前年度まではSchool of International Relations and Pacific Studiesであり、その名前のとおり太平洋地域(アメリカ?中南米?アジア)の各種政策のプログラムを多く提供しています。日本人にとって馴染みのある言い方をすれば、政策研究大学院大学又は国際政経大学院といったところでしょうか。GLIとしてはExecutive programを担当しております。分かりやすく言うと、“主に”社会人向けプログラム担当です。具体的には5年以上の社会人経験者を対象とした1年修士コース、Certificateプログラム(日本語的にいうと科目等履修生)、サマープログラム等の派遣元組織の希望に合わせたカスタマイズコースを提供しています。
この米国研修では、UCSDにおける業務体験、UCSDの各種制度の調査研究、KIT学生が米国留学した際の補助、在米の日本の大学オフィスの調査等を行うこととし、GLIにおいては事務補助を行っています。GLIは5人の常勤と私を含め4名の事務補助のチームで構成されており、GLIの学生受入手続きや授業履修管理、ELS(English as a second language) 等GLIのみで行っている授業の補助等を行っています。その中で私の主業務は、KITでいうところのポートフォーリオ又は教務システムを利用した各種帳票打ちだし作業とオリエンテーション等イベント時の準備、誘導、会場セッティング等です。また、7月~9月に2週間から1ヶ月程度のサマープログラムを提供しており、スタディーツアーのツアーガイドの補助やキャンパスツアー等も行いました。9月の下旬から新学期が本格的に開始されるので、サマープログラムの補助に代わり、新たな業務に従事すると思われます。
次に、調査研究ですが、UCSDの取り組みで気になる制度を調べ、KITでの業務に活かすことを目標としています。そのため、できる限りイベントに出席し、おもしろい取り組みや発見がないかチェックするようにしています。また、私は派遣前の部署が国際企画課でしたので、UCSDの国際交流協定や留学制度を担当者にインタビューし、意見交換なども行っています。取り組みや発見としては、たとえば、UCSDではIT化が進んでおり、すべての学生は指定のリモコンを携帯し、授業ではそれを利用し授業内で教員が出した選択枝の問題を回答するなど双方向型の授業が行われています。また、就職活動イベントに参加した際には、「集団討論?集団ディベート」の説明があり、英語では「Group Solution」と訳されることを知りました。「集団討論」という言い方は漠然としていて、今一何をしたら良いか分からないが、「みんなで解決策を出す会議」というタイトルは、参加者は何をすべきか分かりやすいのではないでしょうか。今後学生にアドバイスする機会があれば役に立つと思います。
これら業務体験や調査を通じて、日本の大学と大きく異なっていると思うことが2つありました。1つ目は、IT化です。あらゆるものがデータベース化していますし、学生向けのみならず組織間の各種通知ですらWebに掲載するか、PDFで済ましています。もちろん学生同士もSNSです。もう1つは、教員と事務の役割が明確ということです。日本のように委員会制ではないので、各種マネージメントは事務の役割であり、教員は教育研究に専念しているように感じます。そして事務は、Deanの方針に沿った上で、かなりの裁量を持って業務を運営しています。今後、外国籍の教職員も増加することが予想されます。彼らが業務にあたる際、日本の仕事文化と彼らの仕事文化を橋渡しする際にUCSDでの経験が役に立つのではないかと考えています。
このようにUCSDに直接関係すること以外にも、将来KITが海外オフィスを構えることとなった際に備え、どのような利用方法があるかも調べています。その一環で、留学しているKIT学生の緊急窓口業務や米国にオフィスを構えている日本の大学施設の見学も行っています。UCLAではKIT学生を受入れている研究室も訪問しましたし、阪大の米国オフィスも見学しました。11月には今いるUCSDにもKIT学生が来る予定なので生活サポートもしたいと考えています。外国オフィスの運営は、無人のもの、現地雇用のみで運営するもの、他大学と共有運営、独自の職員を配置?派遣するものと様々です。KITが外国オフィスを設置する際に最適な場所、運営方法、業務内容をKITにフィードバックし、大学の国際化戦略に活かしたいと思います。
最後に、当初、業務経験ということで派遣されましたので、業務経験において英語による実務スキル向上が重要と思っていましたが、3か月経過した今では、いろんなイベント等に出席し、いろんな制度を知ることが最も重要だと気付きました。イベントによっては学生以外入ることができないものや、GPSの業務の都合で出席できないこともありますが、参加できるイベントは積極的に参加し、外国の大学の様子をKIT内で共有することで大学の国際化に貢献したいと思っています。また、業務体験以外にも、今後米国に派遣される学生?教職員のために、生活情報等もフィードバックするよう準備しています。特に、私は家族を連れて渡米することができましたので、子供を連れてくるにあたり、参考となる情報もフィードバックしたいと考えています。
研修先のUCSDは学生数が約32,000名、教員研究者が約4,000名を有しており、予算規模が約$4,300,000,000(4300億円)の規模である。ただし、医療分野が約$1,200を占めている。Times Higher Educationの世界大学ランキング39位に評価されており、学費は州在住者は年間約$15,000、外国人を含む州外住居者は年間約$35,000となっている。ちなみに、東大は学生数が約28,000名、教員研究者が約3,500名、予算規模が2,500億円、大学ランキングが43位である。
UCSDの特徴は6カレッジ制である。このカレッジ制とは学部の教養はカレッジが提供し、専門は学部が提供するというものである。このカレッジは6つあり、理系科目を多く取得しなければいけないカレッジや外国語科目を多く取得しなければいけないカレッジなどそれぞれのカレッジで卒業までに取得しなければいけない科目群が異なっている。そして、どのカレッジからも各専門へ進学できる。なお、専門科目を履修するには指定された基礎科目を履修する必要がある。ということは、日本では高校時に理系と文系が分かれるが、UCSDでは大学在学時に理系の専門へ進むか文系の専門へ進むか決めればいいということである。注意しなければいけないことは、理系科目が多いカレッジから理系の専門に進む場合は効率がいいが、文系科目が多いカレッジから理系に進む場合、他の学生より多く科目を履修する必要があり、計画的に科目履修を行う必要がある。
カレッジ制のメリットは、たとえば文系に分類される経済でもコンピューターの知識が必要な分野もあり、従来の分類では区分できなかった分野に対応できることである。
業務を行った場所は政策大学院であるGPS(Global Policy and Strategy)内に設置されている特別プログラム(1年修士および官僚等外国人社会人対象の科目等履修生)を担当しているGLIという組織である。
このGLIでは政策や経営関係の科目等履修生等の特別プログラムのワンストップサービスをしている。学生の履修科目を受付け、職員が代行する形で大学の履修登録を行ったり、彼らの相談対応、修了書の発行などを行っている。また、一部の科目は特別プログラム生のみを対象としているため、その科目の名簿作成等授業の準備も行っている。
私の主な業務は教務システムへの入力や願書等書類整理などである。また、GLIの案内の日本語訳を行った。アメリカでは、日本でいう非常勤職員という概念がなく、お手伝い業務は学生バイトが担っている。私は彼らと同じような身分で業務に従事した。
本学の国際化に関わる項目に関して、米国大学の規則を調べたり、担当者への聞き取り調査を行った。その他、各種イベントに参加し、本学との違いを調査した。主だったものは3.調査事項一例で紹介している。
本学の海外進出の参考とすべく、JSPSサンフランシスコオフィス、大阪大学カリフォルニアオフィス、九州大学カリフォルニアオフィスを訪問し意見交換を行った。JSPSでは在米職員研修会にも出席した。この意見交換により、在外国オフィスの運営については、遠隔授業や短期プログラム用ホームステイ手配等定期的な業務があり、かつ意欲のある教職員がいないと常駐で機能させることが難しいと感じた。
また、カリフォルニア大学ロサンゼルス校?サンディエゴ校、テキサス大学アーリントン校に本学学生が研究活動で来た際に受入研究室に訪問した。テキサス大学については、国際オフィスも訪問し、協定等の意見交換も行った。
H28/3/14および3/15に実施されたシンポジウムの予稿集作成を行った。これはGPSではなく、研究部での業務である。
私が所属しているGLIでは、要望に応じて短期プログラムを作成してくれるので、夏季の理系プログラムを依頼することはできる。また、Extensionという附属機関でもUCSDの理系プログラムをコーディネートできる。阪大はベンチャーのプログラムをUCSDで受講させている。
学生を研究目的で派遣したい場合、教員同士のつながりがあれば、Visiting Graduate Studentという身分を与えられ、研究室で研究活動ができる。
外国との共同研究推進のポストに日本人の方が2014年の夏から就任しているので、共同研究したい場合はその方を窓口にすれば、マッチする研究者を紹介してもらえる可能性が高い。また、サンディエゴはライフサイエンスが強く、その分野では日本人研究者の知り合いもいるので、研究者を受け入れてくれる可能性は高い。
また、民間企業を巻き込んだ共同研究としては、サンディエゴには京セラ米国本社や村田製作所の子会社ペレグリン社などがあるので、これらの会社とUCSDを巻き込む形で何か目指すことができる可能性はある。
職員派遣先としては、過去にも大学職員を受入れた実績があるので、今後もポストがあればインターンシップとして受入れてくれる可能性はある。また、GPSは政策大学院なので、行政関係の科目を履修させることも可能である。現在も多くの国家公務員を1年修士コースや科目等履修生で受入れている。
大学世界ランキング上位にランクされているUCSDでは研究力の維持向上の一環として国際化を推進している。まず、UCSDの国際化の指標を確認にしたうえで、業務の対応や各種制度を見ていきたい。
大学の国際化指数として重要視される項目は留学生数(留学生比率)、派遣学生数(派遣学生比率)そして外国人研究者数(外国人研究者比率)である。UCSDは2009年に国際化を加速させる目標を立てた。よって、2009年と現在を比較しながら、UCSDの近年の国際化の状況について報告する。
まず、留学生数の変化であるが、2009年のUCSDの全学生数は29,110名であり、学部生数23,143、大学院生が5,967名となっている。そして、正規生の留学生数は1,542名(学部生609?大学院生933)であり、留学生は約5%を占めていた。なお、非正規生等含むと2,246名であり、内訳は下図のとおりとなっている。
そして、2014年の全学生数は30,310名であり、学部生23,805名、大学院生6,505(医学部生含む)であり、そのうち正規生の留学生数は4156名(学部生2,740?大学院生1,416)であった。つまり、約13%が留学生となった。
この変化を出身国別にみると、下図のとおりであり、中国人の入学者数の伸びが大きいことが分かる。2014年の中国人留学生数の1,893名はUCSDの留学生数の実に約半数を占めている。残念ながら、非正規生の留学生数統計は現在公表されていないが、私の勤務しているGLIではサマープログラム等短期プログラムを実施しており、そのほとんどが中国の学生であることから、彼らを含めるとさらに中国人の留学生の多さが際立つと思われる。
正規生 | 1542(学部生609,大学院生933) |
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非正規生(交換留学生など) | 240 |
認定特別プログラム | 180 |
その他 | 284 |
韓国 | 590 |
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中国 | 468【中国320,香港148】 |
台湾 | 160 |
インド | 151 |
日本 | 129 |
中国 | 2092【中国1893,香港199】 |
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韓国 | 573 |
インド | 251 |
台湾 | 203 |
日本 | 98 |
次に外国人研究者数(international scholar)の推移を見ていきたい。UCSDが定義する外国人研究者とは、ポスドク、非常勤研究員、常勤教員、研究会や短期研究プロジェクト等の短期研究活動従事者である。2009年には外国人研究者は2,385名であり、13年には2,552名へと増加している。
なお、ここでの短期滞在の研究者は、ビザが不要な場合には国際課を通らないので、カウントされていない。
外国人の受入人数は順調に伸ばしているUCSDであるが、学生の海外への派遣は横ばいである。UCSDでは学生の流動性を確保するため全学でクォータ制をとり、留学プログラムとして、サマープログラム、1クォータ以内の短期留学、セメスター以上の長期留学のメニューを用意している。しかしながら、留学者数は2009年では計1,177名の派遣であり、2013年では計1,002名の派遣となっている。とはいえ、毎年コンスタントに約1,000名を派遣しているので、大学院まで含めると留学経験者が約5,000名いると推測されるので、留学経験者の割合でみると約15%にのぼる。
留学に関わる大学の本部組織はインターナショナルセンターである。この部署では、学生受入課(International Students and Programs)、学生派遣課(Programs Abroad Office)、外国人研究者課(International Faculty and Scholar Office)で構成されている。学生受入課では、学部正規生として合格した方の情報を受け、彼らの受入れ手続きを行うほか、各大学院等の部局からの依頼を受け、彼らのビザ書類の発給の手続き、各種国際関連イベントの実施を行っている。
学生派遣課では、学生の派遣プログラムやその奨学金支援を行っている。そして、外国人研究者課では、研究者受入のビザ等の手続きを行っている。
本学の留学生係と比べると、寮や部局が行う特別なプログラムを抱えていない分、シンプルな業務内容であるが、入学予定者すべてとコンタクトをとるので留学生の増加は直接業務量の増加となっている。ここでは、学生受入課に焦点を当て、毎年増加する外国人留学生を受入るために、どのような対応を行ってきたか見ていきたい。
学部新入生の受入においてインターナショナルセンターが対応する理由は、ビザの申請書類を米国の当局に申請およびその書類を受領する部署だからである。ビザ申請内容は個人情報であり、各自異なるため、手間のかかる作業である。UCSDでは従来ペーパーで作業していたビザ作成書類の作成をIT化により大幅に業務を簡略化した。このシステムのポイントは学生各自で入力させることと米国ビザシステムのデータに合わせたアウトプットをするところである。簡単な業務フローは下図のとおりである。
増加する留学生に対応するには各部局の協力も重要となってくる。インターナショナルセンターでは学部新入生の受入は担当しているがそれ以外は各部局が受入手続きを行っている。ただし、ビザ書類作成については各部局からの依頼を受け、インターナショナルセンターが大学を代表して申請している。つまり、インターナショナルセンターに外国人関連を丸投げするのではなく、できることは各部局で行うことも必要となってくる。この体制を可能とするため、インターナショナルセンターでは外国人受入に関連する部署の職員に対し各種制度の説明会の実施及び業務用ウェブ等に制度の説明を掲載し、周知を図っている。
加えて、マンパワーの増加も行っている。UCSDでは職員1名対留学生数百人というマネージメントが可能な一定のルールを決め職員の増員を図り、受入対応を図った。ちなみに2009年には学生受入課の職員数は5名であったが、現在は14名を配置している。
最後に学生の利用である。各種イベントに留学を経験した学生アルバイトを配置し、かなり多くの業務を彼らに任せる取り組みを行っている。米国のインターンは自主性があり、職員がイベントを行うよりも学生目線で充実したイベントをよく実施している。
これらの対策は本学でも参考にしたいところであるが、残念ながらUCSDだから可能である点が多い。マンパワーの増加やアルバイト雇用という人件費については、日本ではUCSDのように予算の裁量はあまりないのは言うまでもない。そして、学生受入手続きについては、ビザの制度が日米で異なっている。ビザ手続きのフロー自体は似ており、大学は当局が発行したビザ書類を本人へ送付し、本人が現地の大使館等へ行く流れである。大学が関与する業務で大きな違いは、日本では大学が書類を入館に持っていかなければいけないが、米国ではデータを送信するだけで、書類は大学が抜き打ち調査に備えて保管するのである。また、日本では、入管がビザ資料を発行すればほぼ入国できることを意味し、入管がチェックする立場となっているが、米国では大使館面接および入国時の審査官がチェックする立場となっている。
そのほか、本学の留学生係では宿舎、UCSDでは部局が行うプログラム、JASSOの業務の一部の奨学金手続きも行っており、UCSDと比較すると非常に複雑である。結局のところ、本学の留学生業務は担当者が実情に合わせて対応するしかないだろう。
(参考)International Center Organization
1,2においてはUCSDの正規留学生数に焦点を当ててきたが、非正規生も多く受け入れている。それぞれ身分が異なるので紹介しておいきたい。非正規生にはNon Degree student、Visiting graduate student、Visiting Scholarという3種類ある。
Non Degree student は指導教員等不要で、自分で申し込むものであり、特にConcurrent Enrollmentという制度は本学の科目等履修生であって、彼らは1科目あたりの授業料を支払い、成績書も発行される。なお、GLIのように科目等履修生をプログラム化している場合、その学生をCertificate studentと呼ぶこともある。
一方Visiting Graduate studentは自分の所属大学の論文等の作成のため、UCSDの研究室にて研究指導を受けるものであり、本学の特別研究学生が最も近いものである。本学との制度の違いは、Visiting Graduate studentは先に述べたとおり、UCSDの学生でないという扱いであって、申請料は発生するが、UCSDでは学籍もなく、授業料や研究料は発生しない。もちろん、学内各種施設も利用できない。外国の大学院から受け入れている短期特別プログラムの学生はこの制度を利用している。
Visiting Scholarは学外研究者向けの身分であり、各部局の依頼に基づき発行している。この身分も学外者であり、学生は発生しないが、最低限の学内施設は利用可能となる。短期プログラムのうち、どの制度にも割り振ることができない場合などには学生でも割り振っている。
本学では、研究インターンシップとして協定校等からの学生を1、2ヶ月程度受入ることで留学生数増加を図っている。日本では留学のビザを所有してる者が外国人留学生という定義があり、ビザが不要な3ヶ月未満で受入れる研究インターンシップの学生は交換留学プログラムではない。よって、かれらの受入身分は本学の非正規生(国際交流学生)ではなく、あくまで所属校であり、本学のどの身分にも当らない。そこで現状では、インターンシップの契約書を取り交わし特別に入講を許可している。あえて身分を与えるなら、本学の学外の研究者向けVisiting Scholar であるが、SGUの目標としている、いろんな人を呼び込むためにもできれば新たに短期学生向けの入講を許可する制度(身分)が必要と思われる。
この新規の身分としてぴったりするのが、先に紹介したVisiting Graduate studentである。UCSDではこの制度で年間400名以上を毎年受入れているが、事務は1名で実施している。手続きに関しては次のとおりである。
このVisiting Graduate student(またはVisiting Student Researcher)であるが、University of Californiaでも大学ごとに制度の違いがあり、一例を以下にあげておく。
UCSDの新入生の留学生は700名を超える。英語ができることが前提で入学していること、及び、人数が多く留学生は特別な存在でないため、特別な対応はない。実施していることといえば、学期始まり時には留学生オリエンテーションおよび歓迎行事が行われ、その後はチューターによる学生サポートを行っているくらいである。一応、これらの制度に関して簡単に本学との違いなど紹介したい。
オリエンテーションでは、セッションとしてビザの説明やアメリカ文化の紹介が行われ、その後ランチおよび学内見学ツアーが行われる。内容はこれといって日本と違いはないが、運営の仕方が一風変わっていた。冒頭あいさつは国際担当副学長が出てくるが、その後は学生インターンがすべてを仕切る。何より驚いたのが、日本では山ほどの資料を渡されるがUCSDはウェブで各自情報を調べることが前提なので、「留学生」であろうが配布資料は一切ない。重要な点のみ説明し、詳細はインターナショナルセンターのウェブを見るように言われる。また、学生が企画しているだけあって、クイズゲーム形式で進行が進みゲストとの一体感があった。ちなみにゲームとはホールの上段、中段、下段の代表者が「ビザの10点」等5×4のボードのクイズをパネラーとして回答するもので、高得点順にランチの順番としていた。インターネットが当たり前となった今、資料がなくてもできるイベントを本学でも考えるべきはないかと考えさせられるものであった。
参加が必須となる留学生オリエンテーションの他には、登録制でサンディエゴの生活必需品買い物および簡単な町の案内ツアー、地元プロ野球観戦ツアーが行っており、生活支援を兼ねて、留学生同市の仲間作りに気を配っているようである。
そして、その後お世話になるのがチューターである。UCSDでは、メンター制といって学年が近い2年生がメンターとなる。ちなみに、世話を受ける新入生はメンティーという。UCSDの新入生は700名を超えるが、米国生活になれている者も多いことから、メンターが必要な場合は登録制としており、近年の状況では約120名がメンティーとなる。メンターはメンターとメンティーの割合が1対20くらいになるように公募をかけ、インターナショナルセンターにて面接を実施した上で決定する。勤務時間に応じた給与が支払われるが、予算に上限があり、週12時間までの勤務となる。メンターの業務は担当するメンティーの対応に加え、メンター同士のミーティングに参加し、近況報告を行う。そして、毎月自分の受け持つ20名に対するイベントを実施し、仲間作りを促すようにしている。このイベントとは、生活必需品買い物ツアー、映画館、ピクニックなりいろいろである。1対複数というUCSDの対応は、メンティー同士の横のつながりができ、孤立させないシステムとなっている。
これは本学とは大きく異なっている。本学では、指導教員にチューターを紹介してもらい、1対1で対応している。業務内容は大学に関係する世話ならなんでもOKしており、実情としては生活立ち上げと授業登録補助が主なものとなっている。したがって、新学期は勤務しているものの、その後は勤務時間がほとんどないケースも見受けられる。この1対1は専門的な研究や履修授業について相談できるメリットはあるが、授業履修がないグローバルインターンシップの受入学生については、UCSDのように公募して、やる気がある人に1対複数で生活対応をやってもらってもいいのではないだろうか。
ここまで学生の受入方法について紹介してきたが、学生派遣もユニークな制度なので紹介したい。UCSDの留学には2つの留学生制度があり、University of CaliforniaのコンソーシアムプログラムであるUniversity of California Education Abroad Program(EAP)と留学斡旋企業を利用するOpportunities Abroad Program(OAP)がある。ともに単位取得が前提となっており、語学目的以外は英語の授業がカウンターパートの大学には求められる。
まず、EAPについて詳しく述べたい。EAP制度とは、協定に基づく交換留学であるが、外国の大学対UCSDではなく、外国の大学対University of Californiaの協定による交換留学である。即ち、1校対University of California傘下の10校との協定であり、バークレー校在籍者でもサンディエゴ在籍者でも相手校に留学できるという制度である。逆に、外国大学側もUniversity of California傘下のどこにでも留学できるものである。この制度により各UC校が外国の大学と協定を締結しなくとも海外留学先を確保できるということである。この協定の内容であるが、授業を履修し単位取得が前提となっているため、ほとんどは学部レベル間の協定となっている。また、受入先では、語学学習を除いては先に説明したとおり英語の授業の提供が求められる。そして、この取りまとめはUC Santa Barbaraで行っており、協定に関心があれば、UC Santa BarbaraのUCEAPオフィスと調整することが必要となる。
参加するための手続きについては、学生はUCSD留学システム(TritonsAbrod)に入力することから始まる。これにより、留学目的や行先等を絞らせた上で職員のアドバイス面接を行う。事前に入力させているため、面接では留学目的の確認等無駄な時間を省くことができる。面接により希望の行先が確定した後は、定員枠を超えた場合のみ選考を行う。当然、学生情報はシステムに入力されているので、選考に必要な書類のデータ入力は不要となる。
派遣が決定すると、学生はUCEAPのシステムに留学に必要な事項を入力する。UCSD International Centerでは、UCSD留学システムとUCEAPの情報を必要に応じ加工し、UCEAPシステムを通じて、UC Santa Barbaraに派遣者情報を提供する。その後、外国の受入先が受入承認をすれば派遣にかかる手続きは終了する。UCEAPでは各国にリエゾンオフィスを設置しており、受入先とUC間の連絡を行っている。ちなみに日本では国際基督教大学内に日本人で英語が堪能な方を採用している。
UCEAPの参加であるが、留学中は授業を履修しないため、UCSDの授業料は免除となる。しかしながら、参加者は各在籍校にUCEAP参加料として、ほぼ授業料と指定の海外旅行保険等手続き費用を加えた金額を支払う必要がある。つまり、カリフォルニア在住学生は年間約$15,000、カリフォルニア在学学生以外は約$35,000+αが必要となる。受入先大学では授業料は不徴収であるため、実質的には相互授業料不徴収の交換留学となる。
次にもう一つの留学方法であるOAPについて紹介する。これは留学斡旋業者を利用した留学である。UCSDで行われた留学業者を招いた留学フェアでは40~50におよぶ業者が集まるほど米国では留学業者を利用した留学がスタンダードとなっている。業者を利用した留学としての日本のイメージは語学留学であるが、ここでの業者は各国の大学と協定しており、交換留学生として授業を受講できる身分で学生を派遣している。そして、各米国の大学は派遣先で取得した単位を認定するシステムとなっている。
手続きであるが、学生はUCSD留学システムにおいて留学申請をし、取得予定の科目や単位認定されるか必要な説明をインターナショナルセンターで受けた後、渡航する。
OAPのメリットは、University of Californiaが協定ない相手先にも派遣でき、派遣者数を増加できることである。そして各業者のプログラムには、サマープログラムもあれば、セメスター制もあり、参加期間がフレキシブルであることもメリットである。しかも、留学にかかる職員の手間を減らすことができることもメリットである。
業者を利用した留学参加費であるが、各受入先大学の授業料?滞在費?業者手数料等の合計金額であり、派遣先により金額はばらばらである。なお、ISAという協定校であるテキサス大学アーリントン校が利用している留学斡旋業者(International Studies Abroad)は立命館大学アジア太平洋大学と協定を持っており、その金額が年間$32,350(入学料および宿泊料込み)である。おそらく、規則とおりの金額を徴収したものとなっている。
この金額は一見高額に見えるが、参加者はUCSDにオーソライズされた留学中なので、授業料は納めなくてよい。カリフォルニア在住以外の学生にとって、授業料や高額な家賃等の生活費を考慮すると年間約$50,000は必要であり、この制度で留学した方がUCSDで1年間履修をするより節約となる場合が多い。
最後に派遣者する上で重要な留学奨学金について触れたい。実に恵まれたことに、UCSDの学生は、UCSDの留学奨学金、カリフォルニア在住者のみ申請できるUCEAP奨学金、各学部が運営する留学奨学金、そしてIndigo scholarship等複数のプライベートファンドを複数併願申請することができる。採択金額は概ね1件500ドル~1000ドルであり、申請時期はセメスターごとの年2回となっている。ほとんどの参加者は1件以上の奨学金を得て渡航することが多いそうである。なお、大学の留学奨学金は1件$5,000とのことであった。
ちなみに、留学斡旋業者は、NAFSA会議などで各国の大学とコンタクトを取り、受入先大学となれるか交渉するそうである。日本語教育があることと英語授業を提供していることが条件となるため、受入可能大学は限られるようである。
留学生数や外国人研究者数の増加の方法として、国際交流協定がある。国際交流協定という言葉でまずイメージするのは交換留学だと思う。しかしながら、実際には、交流をしようという内容だけの国際交流協定と具体的にメリット等を記載した覚書が存在する。交換留学は派遣先では互いに授業料を免除する等のメリットが記載されるので、Exchange Programの覚書が必要となる。ゆえに、国際交流協定しかなく、学生の受けにあたっては授業料を徴収する場合もある。
UCSDの国際交流協定の方針は、KITと同様に研究交流を重視しており、部局からのボトムアップ型を取っている。ボトムアップ型のデメリットである担当者退職後の引継ぎについて、UCSDでは引き継いで交流をやる気がある場合のみバトンを引き受けるという場合が多いようであり、引継ぎリスクはあまりないとのことであった。
次に国際協定締結のプロセスであるが、UCSDではコーディネーター(lead faculty)が学科長の許可を得たのち、計画書を国際オフィスに提出する。コーディネーターや国際企画課にて、先方と協定書の調整を行い、合意が取れ次第、調印する。UCSDの協定は通常は学科レベルで行うが、lead facultyの意向や交流計画の内容によっては、国際部長レベルの判断により、全学協定とする。この際、国際部長レベルに協定の権限が委任されているので、全学会議等を経る必要はない。
手続き期間については、学科長の承認さえあれば協定手続きスタートするので、1~2月程度で調印する段階まで進むとのことであった。
この際の国際企画課の業務としては、先方や教員との窓口となるほか、協定に関係する知財や教務等の部署に内容の確認を依頼し調整している。
ほとんどの日本の国立大学では、相互授業料不徴収の交流が国際交流協定の意義となっている。学生交流が続けば、必然に関連する教員交流も活発となり、強固な関係を築くことができるという考えである。また、相手大学へのPRも協定を締結する意義の一つである。ところがUCSDでは、共同研究する際に先方と知財?特許等の取り決めをあらかじめ取り決める必要がある場合に協定を行っており、学生交流の相互授業料不徴収の協定はもはや行っていない。そして、すでに知名度が高く正規生留学生も多いので、特別PRを行う必要もない。UCSDの学生派遣については、EAPを利用できるので、わざわざサンディエゴ校だけが独立して交換留学を締結する必要性がないのである。また、派遣先については、OPAも併用しているので十分な派遣のキャパを確保できている。受入にあたっても、EAPを利用して受け入れ可能である。協定がない大学からの受入についても、科目等履修生として科目履修やVisiting Graduate Studentとして研究に従事することが可能である。日本の制度では授業を履修するには、入学手続きか協定が必要であるが、これらのハードルがないUCSDにとっては学生交流のための協定を締結するメリットがないのである。よって、UCSDでは、協定が必要な場合だからこそ協定するのであり、管理だけが増えてしまう形だけの学生交流を主眼の協定はできるだけ行わない。
各大学は大学の国際化を進めるため、組織改革、入試制度改革、教育方法改革、各方面での連携を行う必要があるが、結局のところ、ポイントは留学生の受入者数と日本人の派遣者数である。しかもUCSDでは正規生の留学生数しか公表されていないように、正規生の留学生である。外国人学生が多い状態でも各部署が業務遂行するには、ネイティブ学生と対応を分ける必要がないようにする必要があり、その対応を各組織で行えば改革になるのである。よって、正規生の外国人留学生を増加させるため、外国人特別入試を廃止し、協定校に限らず国際科学技術コースにて学生を受入れる体制を整える必要があるだろう。また、私費外国人留学生へのアプローチはきっと中国とインドだろう。
アメリカに来て驚いたのが、中国人とインド人学生の多さである。アメリカの滞在費も考慮すると年間500万円以上は必要となるにも関わらずこれらの国の学生があふれているのである。世界の人口のNo1,No2であるので、当然これらの国からの留学生が多くなり、特に中国は世界第2位の経済大国なので、私費留学できる環境が整っている。インドも経済が伸びているので、中国ほどではないが、私費留学者がいる。この2国へのアプローチは必要だろう。
一方、学生の派遣の対応についてであるが、1ターム以上の派遣においては、留学斡旋業者を利用した留学を認めることが一定の効果があるかもしれない。UCSDのように留学派遣中の授業料を無料に必要はないが、私費による業者利用の留学を単位認定し、留年することなく進学できる体制を取ることが必要であろう。この業者を利用した派遣は、大学業務の軽減という視点でも重要である。複数名をまとめて同じ日程で派遣するなら大学においてマネージメントは可能であるが、派遣者数が増加傾向にある中、従来のように1校に1,2名を派遣する手段では、手続きの負担が大きくマネージメントできないであろう。この留学斡旋業者を利用した派遣はすでに導入しているケースがいくつもあるので、本学にあった業者を探すことはそれほど困難ではないだろう。
研究活動において、経費執行は必ず発生します。本学関係者は国の基準に準拠した本学のルールで経費執行する必要がありますが、外国人研究員を採用した際に、彼らが持っている経費執行の常識と日本のルールにはズレあるかもしれません。事務側も外国の経費執行方法を理解しておくと外国人研究者への説明が伝わりやすくなり、経費執行のミスを防ぐことになる可能性があると思うのでUCSDのケースを物品、旅費、会議費に分けて紹介します。
まず、物品購入についてですが、物品システムにて購入しますが、このシステムのイメージはインターネット通販となっています。システム内には取引のある業者の各種カタログの製品情報が入っており、希望商品の検索や合成などのオーダーメイド等の手続きが可能であり、予算コードを入力して購入手続きが完了となります。
このシステムの他に緊急を要する物やアメリカ以外の買い物の際は大学物品カード(Express Card)を利用することがきます。ただし、1品が$4,999を超えるものやカード決裁までにカード利用額$10,000以上の累積となる場合には使用することができません。
なお、UCSDでは、$5,000以上の物は固定資産(Inventorial Equipment)となり、備品シールを貼って管理することになります。
また、UCSDでは検収がなく、支払い手続きは領収書を会計に提出するのみです。
次に、旅費ですが、旅費システム入力内容はほとんど本学のシステムと同様です。旅費は原則として、精算払いであり、乗物やホテルは領収書に基づき実費精算となり、最後は個人の口座に振り込まれます。なお、駐車場代やビザ取得費等の75ドル以下の支出は領収書不要です。また、自家用車を利用した際には距離に応じて決まった金額が支給されます。また、乗物も原則としてエコノミークラスです。日当(食費)に関しては、上限71ドルで、領収書は不要ですが、使用した実費額をシステムに入力して請求することとなります。
出張の回数が多い場合や海外出張等旅費が高額となる場合には、旅行専用の大学カードを利用することができます。これが概算払いの代わりになるのですが、旅行終了後に旅費システムで決裁する際に、大学カードで支払う金額カラムと立替えた金額カラムがあるので、立替えた分のカラムに入力された金額のみ個人の口座に振り込まれます。旅行カードのメリットですが、ホテルの予約のデボジットに支払うことができるほか、外国等で現金が必要なときに現地のATMで引き出せることができます。
また、外部の人を招聘する際のホテルについては、大学付近の場合は指定のホテルが旅費システムに入っているので、それを利用します。この場合は、直接請求書のやり取りは不要となり、宿と会計課で処理します。
なお、UCSDでは出張の場合、手続き不要で指定の旅行保険に加入することになります。
そして、会議費ですが、本学とほぼ同様の内容を会議費システムに入力することとなります。違いといえば、本学のような学長の事前承認は不要であり、所属長の承認があれば執行することができるということです。
以上のとおり、大きな違いは検収関連と大学カード支払いと思われます。本学では大学カードの利用は限られているので、その代わりに外国人教員は自身のカードによる立替払いが多くなると思われます。それを踏まえて、採用時に物品購入等の説明をする必要があると思います。
最後にUCSDの大学カードについて補足しておきます。UCSDの大学カードのややこしい点は物品用と旅費用に分かれている事です。物品カードは金額が確定しているものを対象としていますが、旅行カードは最後に精算する場合に使われます。よって、会議の事前登録費の際に、金額が確定している場合は物品カード、デポジットのように金額が変わる恐れがある場合には旅行カードを利用します。ちなみに、使用目的外と思われる店舗でカードを利用するとはじかれるようになっています。
近年、日本の研究力の向上に資するため、日本の大学では年俸制等、これまで以上に流動性を高めた教員の雇用形態を整備する動きが出てきました。この背景には、研究者の国際交流、つまり、外国で活躍している一線級の研究者を招聘することや国内研究者を外国に一定期間派遣するためのハードルを下げることが一つの要因だと思います。よって、大学職員は今後これらの雇用形態を利用した国際交流が起こることに備え、外国での研究者の雇用形態を理解しておく必要があります。その一例として、University of California(UC)の雇用形態を紹介したいと思います。
まず、給与についてですが、日本の国立大学の教職俸給表のように、University of Californiaの10校の俸給表は統一されています。
日本の俸給表との大きな違いは、年間(12ヶ月)雇用と学期間(9月~6月)雇用の2種類があることです。年間雇用は医学系のみに適応され、それ以外は学期雇用となります。そして、教員(Faculty)だけでなく、研究のみに従事する者(Research)や経済?工学系教員俸給表があります。
この俸給表に基づき昇給しますが、日本のように毎年昇給するのではなく、2年ごとに昇給します。
また、UCでの俸給表とは最低限の金額を保障するものであり、議会の承認が必要ですが、業界の人件費マーケットを勘案し、数%上乗せした金額が給与となります。この上乗せをOff scale salaryといいます。シカゴ大などピアとなる8大学はアメリカの大学協会(日本の国大協)に給与を報告するので、これが人件費マーケットの基準となります。そして、UCでは職員全員の給与も公開されています。(https://ucannualwge.ucop.edu/wage/)
なお、米国では定年という制度はないので、教員でも事務でも退職金という概念はありません。よって、日米の報酬を比べるのであれば、日本の俸給表に退職金として予想される金額も加えて考える必要があります。
退職金という概念がないのであればスムーズに他機関へ異動できると一見思いますが、やはりアメリカでも長期間務めることにメリットもあります。それは企業年金、いわゆる2階建て部分の年金です。年金は運用されるものなので、長期間働くほどリターンが大きくなります。このUC企業年金ですが、55歳から65歳の間に支給が開始されるものであり、勤務年数にもよりますが、65歳で満額受給できます。したがって、あえて定年というならば、メリットを最も享受できる65歳ということになります。ちなみに、UC間の異動では勤務年数は通算されます。
以上のとおり、現職を退職し、数年間程度の短期間日本で雇用するにはかなりのメリットを与えるか、再度同じ勤務先に戻れる保証がなければとても難しいことが分かります。また、UC企業年金を受給するためには最低5年以上の掛け金が必要となるので、日本の研究者を派遣するにしても、短期間のUC勤務では掛け金の損をすることになります。
では、海外から研究者を雇用する方法がどのような方法があるのでしょうか。まず、クロス?アポイントメント制が考えられます。交渉する際にクロス?アポイントメントをUC側が理解していないと話にならないので、そもそもクロス?アポイントメント制という概念があるのか調べましたが残念ながらありませんでした。新しい考え方ということとおそらく米国の雇用契約が問題なのだと思います。UCでは教員、事務関係なく公募の際に仕事エフォート100%や50%等記載されます。つまり、常勤や非常勤という切り分けではなく、週40時間勤務か週20時間のような募集の仕方をします。よって、専従つまり100%で契約した済みにも関わらず、他の職に従事すると100%の従事でなくなるので雇用契約上ありえないということになります。
もちろん、外部から優秀な人材を取り込むことは必要なので、たとえば他大学に所属している教員を招聘する場合は、特任教員(Adjunct Professor)となります。また、退職教員や特定の業務に一時的に従事する者は非常勤教員(Visiting Professor)と定義されます。
結局のところ、考えられるのは兼業申請を行い許可してもらうことになります。University of Californiaの常勤教員には兼業規定があり、学期間雇用教員は年俸の171、年間用雇用教員は年俸の236で除した金額が1日あたりの上限となります。兼業にあたっては、一時的であること、外部資金の制約がないこと、事前承認を得ることが必要となります。よって、先方と報酬等を決める際には、兼業規定の制限を確認することが重要となります。すべての米国大学が同様の兼業規定というわけではないでしょうが、少なくもUCでは、夏季の追加勤務が認められている学期間雇用教員をターゲットに夏季休暇中の兼業を依頼することになると思います。ただ、この短期間の招聘にあたり就労ビザを取得させることを考えると入念な事前打合せが必要となります。