応用生物学系 岸川淳一 准教授らの研究グループは、ヒスタミンH4受容体(H4R)(用語1)の立体構造を、クライオ電子顕微鏡法(Cryo-EM)(用語2)を用いて解明しました。生体アミンの一種であるヒスタミン(用語3)は、ヒスタミン受容体を刺激することによりアレルギーや炎症に関与します。4種類のヒスタミン受容体の中でH4R は、アトピー性皮膚炎や喘息などの慢性アレルギー疾患の治療標的として注目されています。本研究により、今まで未知であったH4Rの立体構造が明らかになり、薬理学的特徴が異なる2種類の作動薬 (ヒスタミン、イメチット)の結合構造をそれぞれ決定することで、H4Rが持つ特異的なリガンド認識機構を解明しました。特にイメチットの結合によるPhe344の構造変化は、新たな空洞「Aromatic slot」を形成し、サブタイプ選択性に重要な役割を果たしていることが分かりました。これらの結果は、ヒスタミン受容体のサブタイプ選択性の分子的基盤を洞察し、H4Rを標的とする薬剤の合理的なデザインに貢献できることが期待されます。
本件の詳しい内容はこちら(PDF)
本成果は、10月20日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン(外部サイト)掲載されました。
(用語説明)
1)ヒスタミン受容体
ヒスタミンを受容するGPCR。H1RからH4Rまでの4つのサブタイプが存在している。H1Rは平滑筋や血管内皮細胞などに発現しており炎症やアレルギーを、H2Rは胃の細胞などに発現しており胃酸分泌を、H3Rは中枢神経に発現し神経伝達物質の放出を、H4Rは肥満細胞などに発現し、免疫細胞の遊走を担っている。
2)Cryo-EM(Cryogenic electron microscopy)
クライオ電子顕微鏡法。タンパク質などの凍結した生体試料に電子線を照射し、試料の観察を行うために透過電子顕微鏡(TEM)を用いる。試料から得られた2次元投影像を単粒子解析技術により3次元再構成し、生体分子の立体構造を決定する。
3)ヒスタミン
生体アミンの1つ。肥満細胞などにより生産される。血圧降下、血管透過生亢進、平滑筋収縮などの薬理作用を担う。