所属 | デザイン?建築学系 |
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氏名 | 金尾 伊織 教授 |
期間 | 令和2年1月22日-令和2年3月19日 |
滞在先 | シンガポール工科デザイン大学 |
私はシンガポール工科デザイン大学?Singapore University of Technology and Design(SUTD)に滞在しています.シンガポールには国立大学が6校あり,SUTDはそのうちの1つで創立11年目の非常に新しく,エネルギッシュな大学です.マサチューセッツ工科大学?Massachusetts Institute of Technology(MIT)と提携して設立された大学で,デザインと技術に重きを置いた実践的な教育が行われています.チャンギ国際空港からわずか2駅の場所に立地しており,街の中心地からは離れているのですが,地下鉄,バスなどの公共交通機関が非常に発達しており,どこに行くのにもそれほど不便を感じません.
敷地の大きさは京都工芸繊維大学と同じくらいですが,その敷地の中に校舎,Fabrication Lab,宿舎,スポーツ施設があります.校舎はBuilding1~Building3の3棟ですが,とても広々とした校舎で羨ましい環境です.Fabrication Labには,金属?木工加工機械,3Dプリンターやレーザーカッターなどがあり,講習を受けた学生は使えるそうです.
コースは,Architecture and Sustainable Design (ASD),Engineering Product Development (EPD),Engineering Systems and Design (ESD),Information Systems Technology and Design (ISTD)があり,私は,ASDに滞在しており,授業?演習に参加させていただいています.一般の大学とは異なり,3学期制からなっており,学部では授業,プロジェクト,修士ではプロジェクトに取り組んでいます.卒業制作展も開催されていました.本学の建築設計の研究室とよく似ていると思います.私が参加している授業の受講生は60名程度ですが,ASD全体では1学年140名程度在籍しており,女子学生が約半数在籍しているそうです.工学系で女子学生の比率が多いのも本学のデザイン?建築学課程とよく似ていると思います.また,製図室は24時間開放されていて,いつでも誰かがいて製図室で睡眠をとっている学生も多いそうです.製図室はとても広々としていて,大きな作業机がグループごとに準備されており,そこで宿題や共同で作品作りを行っています.手で図面を描くことはないらしく,皆,机の上にはPCが置かれてあり,PCで作業をすると説明してくれました.しかし,スケッチブックにアイディアをドローイングすると言って見せてくれた様子は,本学と変わりませんでした.机,床には多くの作品に加えて寝袋や布団も置かれてあり,皆,本当に楽しそうに作業をしていました.学生たちは,SUTDの先進的な教育方法に惹かれて進学してきたそうで,大学の教育に満足していると話してくれました.
私を受け入れてくださったSam Conrad Joyce先生は構造技術者であり,2回生を対象とした基本的な構造力学の授業に参加させていただきました.一生懸命計算するという形式ではなく,自分で架構などを作って壊し,その特徴を実感しようという授業スタイルです.この試みは今年初めてらしく,試行錯誤しながら進めておられましたが,本学でもよく似たことをしておりましたので,わずかではありますが,一緒に授業を作り上げるというプロセスを体験させていただきました.学生たちは,本当に楽しそうに取り組み,様々な作品が作られました.演習でスタイロフォームを使って日本の伝統的な仕口を作り,その工法を参考に,自分たちで仕口を考えるという宿題にも取り組みました.英語,中国語,マレー語(?),タミル語(?)と様々な言語が飛び交いながらの演習は,とても新鮮な光景でした.
このように恵まれた環境の大学ですが,1月下旬から新型コロナウィルスの影響で,様々な制約が続いています.私がSUTDへ来たのが旧正月を間近に控えた1月22日でした.70%が中華系の国なので,大学も1月25日~1月27日までお休みで,1月28日から新しい新学期が始まると聞いていました.しかしご存知の通り,1月23日に中国?武漢が封鎖され,その後一気に新型コロナウィルスが世界に広がり始めました.シンガポールは2003年に流行したSARSで33名の死者を出したという苦い経験から,政府が積極的に感染拡大防止策を出しました.大学の学部授業の開始が1週間遅れ,その後も,中国から帰国した教職員,学生は2週間の自宅待機となり,寂しい大学の雰囲気が続きました.ようやく,2月3日から授業がスタートとなり,授業に参加させていただきましたが,2月7日にはシンガポール政府が新型コロナウィルスに対する警戒レベルを黄色からオレンジに引き上げ,大学生活がさらに制約されることになりました.50名以上の授業はすべてビデオ講義となり,大人数が集まる会合なども中止されています.大学のエントランスにはサーモグラフィーが設置され,8時から18時まで体温チェックをされ,OKが出ないと大学に入れず,午前?午後に体温を大学へ報告するという義務もあります.日常生活では,一時期買いだめによる物不足が生じましたが,シンガポール政府の呼びかけもあり,すぐに落ち着いた生活に戻りました.このような時期に来たことがとても不運であると思う一方,シンガポール政府の積極的な取り組みと,それに対応して大学が講じている措置は,外国の危機管理というものを学ぶよい機会になったと思います.大学が積極的に対応してくれているということは,そこにいる学生,教職員にとっても,大きな安心につながるということを身に染みて実感しました.そして,そんな状況でも,学生たちは楽しく授業や課題に取り組んでおり,大学のエネルギーを感じました.
スーパーグローバル大学創成支援事業にてこのような機会を与えていただき,心よりお礼申し上げます.渡航前の手続きから渡航中に渡り,国際課の皆様にはご支援いただきました.また,デザイン?建築学系の先生方,学域事務室等の皆さまには,不在中様々なご支援を頂きました.特に,同研究グループの満田衛資教授,村本真准教授,小島紘太郎助教には,より多くのご負担をおかけしています.この場を借りて,深くお礼申し上げます.
最後に,受け入れて頂いたErwin Viray教授およびSam Conrad Joyce准教授,ASDの教職員の方々には,多岐にわたりご支援およびご配慮いただき,心よりお礼申し上げます.
写真4 卒業制作展
写真5 学部生製図室の様子と構造演習の作品