工芸科学部、大学院博士前期課程、大学院博士後期課程での本学学長からの祝辞を掲載しています。
本日、京都工芸繊維大学工芸科学部を卒業され、工学士あるいは農学士の学位を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。そして、皆さんをこれまで支えてこられたご家族の方々、関係者の方々、また指導された教員の方々に心からお祝いを申し上げるとともに、感謝の意を表します。
今年の5月1日には、新天皇の即位の儀が行われ、「平成」という元号から新たな元号に変わります。今日は平成31年3月25日ですが、皆さんは平成30年度の卒業生であり、平成最後の工芸科学部卒業生ということになります。
また今年は、本学にとって、京都蚕業講習所、京都高等工芸学校を起源とする二つの専門学校を母体として、1949年の大学設置から70周年になります。さらに、1899年の京都蚕業講習所の設置からは120周年という記念すべき年でもあります。
二つの前身校に因んで、大学としてのスタート時には、工芸学部、繊維学部の2学部体制でしたが、平成16年(2004年)に国立大学法人化した後、平成18年(2006年)に二つの学部を統合再編し、「工芸科学部」という日本で唯一の学部名称となっています。一学部化することで、国立大学法人化後の様々な大学改革への取組が迅速に行われて来ました。現時点においても大学改革への社会からの要請は続いています。このことは、大学という人材育成の高等教育機関を卒業する皆さんへの、社会からの期待度の高さでもあると言えます。
大学改革の流れの中で、平成26年(2014年)に、政府は日本の大学のグローバル化を促進するために、スーパーグローバル大学創成支援事業を公募しました。本学はオープン?テック?イノベーションを牽引する国際工科系大学構想を提案し、全国の37の大学の一つに選ばれました。関西では、京都大学、大阪大学、奈良先端科学技術大学院大学、立命館大学、関西学院大学そして本学の6校です。この応募に際し、本学では「TECH LEADER」と呼ぶ、育成する人材像を明確に宣言しています。もともと本学は前身校の設置以来、実学を支える高度専門技術者の養成を謳ってきていますが、それに新たに「TECH LEADER」という語を当てることにしたのです。「TECH LEADER」とは、「専門分野の知識?技能を基盤として、グローバルな現場でリーダーシップを発揮してプロジェクトを成功に導くことのできる人材」を言います。「TECH LEADER」には本学卒業生として有すべき能力として「工繊コンピテンシー」と呼ばれる4つの要素を培うことが求められます。4つの要素は、「専門性」、「リーダーシップ」、「外国語運用能力」、そして「文化的アイデンティティ」です。
本日卒業される皆さんが入学した年の履修要項には、まだ整備が間に合わず、残念ながら「工繊コンピテンシー」の記載はされていませんが、例えば、英語授業や図書館のグローバルコモンズなどでその一端を感じられたこともあったでしょうし、「専門性」については学部卒業生としての自負は確実に持たれていると思います。
4月から引き続き本学の大学院に進学される方々は、大学院履修要項にすでに明記されていますので、大学院修了時には、「TECH LEADER」としての能力を確実に獲得しておくよう意識してください。卒業して社会に出られる方、また他大学の大学院に進学される方も、京都工芸繊維大学の卒業生として「TECH LEADER」の意識を持ってプロジェクトに取り組んでいただきますようお願いします。
ところで、皆さんには1年次の「KIT入門」、今は「工芸科学基礎」という科目で私が本学の歴史や大学の単位のことなどをお話しした後、MIT(マサチューセッツ工科大学)のメディアラボ所長 伊藤穣一さんの、AI時代に求められる9つの基本法則の中の一つを紹介したのを覚えているでしょうか。「Compasses over Maps」です。記憶にありますでしょうか。
皆さんのほとんどは、高校の生徒として入学試験を経て大学に入り、卒業して企業等へ入社、あるいは大学院を経て、社会へ出て安定した生活を送るという人生地図があり、大学で勉強すればその上を迷うことなく進めるコンパス、方位磁石を持つことができると考えているのではないかと思い、私の杞憂かと思いつつも、AI時代に入っている現在について認識していただくため、伊藤穣一さんの提言を伝えさせていただきました。AI時代のAIは、artificial intelligence、人工知能ではありません。このAIは、After Internetのことです。伊藤穣一さんのAI時代に求められる9つの基本法則はインターネットで検索すれば出てきますので、もしまだ見ていない人がいましたら、是非見てみてください。
すでにこれらの提言を唱えられてから時間がたっていますが、日本ではまだまだ気づいていない人も多いので有効だと思います。複雑かつスピードが早く、予測困難な時代に大切なのは、地図を探すことではなく、優れたコンパスを持つことです。そのコンパスは常に自身で磨き、改善が行われているものでなくてはなりません。本学は、そのコンパスを自ら作ることのできる人材として「TECH LEADER」を掲げているのです。
伊藤穣一さんの9つの基本法則から、もう一つ紹介しておきます。それは「Learning over Education」です。今、皆さんは、勉強を卒業したのではなく、勉強をするコンパスを手に入れた、あるいは手に入れようとしているのです。
皆さんは、科学技術の分野を専門として学位を取得されましたが、各自の専門力とこれまでに修得された力を基礎として存分にその能力を発揮され、人間社会に貢献されることを期待していますが、加えて皆さんが特に、「TECH LEADER」として、社会の様々な課題に対して、それにチャレンジする時機が来たら、皆さんの考える力を駆使して、的確なコンパスのもと21世紀の世界の科学、産業、文化に大いに貢献されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。
母校は常に応援しています。頑張ってください。
平成31年3月25日
京都工芸繊維大学
学長 森迫 清貴
本日、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士前期課程を修了され、修士の学位を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。そして、皆さんをこれまで支えてこられたご家族の方々、関係者の方々、また指導された教員の方々に心からお祝いを申し上げるとともに、感謝の意を表します。
本学は、1988年の工芸科学研究科設置以来、これまでに9992名の修士号の学位を授与して参りました。
本日は、修士学位9993号から10492号までの学位を授与いたしました。皆さんの研究成果は、それぞれの分野において更なる展開のため、また技術革新や産業創出のためにも活用されることが期待されます。皆さんに続く後輩たちの研究にも役立つことになるでしょう。
今年の5月1日には、新天皇の即位の儀が行われ、「平成」という元号から新たな元号に変わります。今日は平成31年3月25日ですが、皆さんは平成最後の工芸科学研究科修了生ということになります。また先ほど気づかれた方もいらっしゃると思いますが、工芸科学研究科としての修士号の学位が一万を超えた記念すべき年の修了生ということになります。
さらに今年は、本学にとって、1899年の京都蚕業講習所の設置から120周年、そして京都蚕業講習所を母体とする京都繊維専門学校と1902年の京都高等工芸学校を起源とする京都工業専門学校を母体として、第二次世界大戦後の1949年に大学となってから70周年になります。大学としてのスタート時には、工芸学部、繊維学部の2学部体制でした。それらを統合して工芸科学部となったのは、2006年のことです。
大学院は、1954年に工芸学専攻科、繊維学専攻科が設置され、1965年に大学院工芸学研究科、翌年に繊維学研究科が設置されています。この二つの研究科は2年間の修士課程のみでした。ノーベル化学賞を日本で初めて受賞された福井謙一先生が学長を務められていたとき、福井学長のご尽力もあって、1988年に二つの研究科を統合した区分制博士課程が設置されました。このとき、学部名より20年ほど前の段階で「工芸科学」という大学院研究科名が生まれています。「工芸科学」という日本で唯一の研究科名は、科学技術による研究開発が人間の真の豊かさの実現につながるべきであり、テクノロジーと人間とを結びつける「ソフトテクノロジー」を指向する意図でつけられました。現在、本学は、「工芸科学」の理念に基づき、21世紀の個性的な産業と文化を創出する「感性豊かな国際的工科系大学」を目指し、人に優しい実学?新しい実学の具現化に挑戦しています。
「ソフトテクノロジー」を実現する人材を「TECH LEADER」と呼んでいます。みなさんは本日修了されますので、履修要項を読み返す必要はないと思いますが、「TECH LEADER」の持つべき能力、コンピテンシーが掲載されています。これを「工繊コンピテンシー」と呼び、その能力として4つの要素をあげています。それは「専門性」、「リーダーシップ」、「外国語運用能力」そして「文化的アイデンティティ」の4つです。これらをまず学部のディプロマポリシーとして学部時代に培い、博士前期課程ではより高度で、より実践的で、より深い理解度を獲得するよう求めています。「TECH LEADER」は、プロジェクトを成功に導く人材です。必ずしもトップとしての役割を言っているのではありません。課題に応じて組織されたグループで、自分の役割を自覚することができ、同時に他の構成員の役割を理解し、目的を達成するための合理的な検討と協力ができる人を言います。
本日、修了される皆さんは、きっと「TECH LEADER」となり得ていることと思います。本学の博士前期課程は、「TECH LEADER」の中核として期待されています。
平成の30年の間に、日本は少子高齢化に突入し、世界の情勢もある意味不透明で予測困難な時代となったことを感じていると思います。しかし一方で、IoT、ICT技術の進展やビッグデータ活用、AI技術などの新たな展開も目に見えつつあります。かたや伝統や文化への科学的理解も深まりつつあるように思います。「TECH LEADER」としての自覚のもと、真に、人間にとって豊かな社会を実現するために奮闘されることを祈念して、お祝いの言葉といたします。
母校は常に応援しています。頑張ってください。
平成31年3月25日
国立大学法人京都工芸繊維大学長
森 迫 清 貴
本日、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士後期課程を修了され、学術博士あるいは工学博士の学位を取得されました皆さん、誠におめでとうございます。京都工芸繊維大学を代表し、心からお祝い申し上げます。そして、皆さんをこれまで支えてこられたご家族の方々、関係者の方々、また指導された教員の方々に心からお祝いを申し上げるとともに、感謝の意を表します。
本学は、1988年の工芸科学研究科設置以来、これまでに906名の博士号の学位を授与して参りました。
本日は、課程博士907号から930号までの学位を授与いたしました。皆さんの研究成果は、本学の知的財産に加えられ、提出していただいた学位論文は広く人々に公開され、それぞれの分野において更なる展開のため、また技術革新や産業創出のためにも活用されることが期待されます。また、皆さんに続く後輩たちの研究にも役立つことになるでしょう。
本学は、1899年(明治32年)設置の京都蚕業講習所、1902年(明治35年)設置の京都高等工芸学校を起源とし、1949年(昭和24年)に京都工芸繊維大学となりました。今年は大学として70周年、京都蚕業講習所の設置から120周年になります。大学院工芸科学研究科に博士後期課程が設置されたのは1988年(昭和63年)、ノーベル化学賞を日本で初めて受賞された福井謙一第6代学長のときです。このとき修士課程のみであった大学院工芸学研究科、繊維学研究科が一つの工芸科学研究科として生まれ変わりました。学部はその後も工芸学部、繊維学部の2学部体制で、2006年(平成18年)にようやく工芸科学部となりました。
「工芸科学」という日本で唯一の研究科名、学部名は、科学技術による研究開発が人間の真の豊かさの実現につながるべきであり、テクノロジーと人間とを結びつける「ソフトテクノロジー」を指向する意図でつけられました。現在、本学は、「工芸科学」の理念に基づき、21世紀の個性的な産業と文化を創出する「感性豊かな国際的工科系大学」を目指し、人に優しい実学?新しい実学の具現化に挑戦しています。
ところで皆さんは、最近SDGs(エス?ディー?ジーズ)という言葉をよく聴かれるのではないでしょうか。SDGsとは、2015年の国連サミットで採択されたもので、「Sustainable Development Goals」の略称で「持続可能な開発目標」のことです。2030年までに達成すべき17の大きな目標と、それを達成するための169の具体的なターゲットで構成されています。貧困や飢餓、健康や教育、安全、エネルギーや経済、働き方、まちづくり、さらに気候や自然保護、平和に至るまで様々な目標が掲げられています。
一方、日本政府は科学技術政策の基本方針の中で、我が国が目指すべき未来社会の姿としてSociety5.0を提唱しています。Society1.0は狩猟社会、Society2.0は農耕社会、Society3.0が工業社会、Society4.0が情報社会です。Society5.0とは、サイバー(仮想)空間とフィジカル(現実)空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会(Society)であるとされています。Society4.0では、知識や情報が必ずしも共有されず、分野横断的な連携が不十分であったことをかえりみ、今度のSociety5.0では、IoTで全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報を共用し、今までにない新たな価値を生み出すことで、一人一人が快適な社会となること、一人一人にとって幸せな社会を目指そうというものです。
本学の「工芸科学」はまさに人間の真の豊かさに向けてテクノロジーをつなげようとする実学であり、工芸科学研究科で科学技術の分野を専門として学位を取得された皆さんは、世界のSDGs、日本のSociety5.0、21世紀の世界の科学?産業?文化に大いに貢献されますことを祈念して、お祝いの言葉といたします。
母校は常に応援しています。頑張ってください。
平成31年3月25日
京都工芸繊維大学
学長 森迫 清貴