材料化学系 野々口斐之講師らの研究グループは、油に溶かしたカーボンナノチューブを樹脂に混ぜて高機能な複合材料を作製しました

 材料化学系 野々口斐之講師、奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 物質創成科学領域 河合壯教授、データ駆動型サイエンス創造センター マテリアルズ?インフォマティクス部門 宮尾知幸准教授、船津公人特任教授らの研究グループは、優れた機能性素材であるカーボンナノチューブ(CNT)※1を有機溶媒に溶かしたインクを開発し、加熱により成形する樹脂(熱可塑性樹脂)内に効率よく均一に分散させて混合することで、高機能化した複合材料をつくることに成功しました。
 CNTは炭素のみが筒状に結合した直径数ナノ(10億分の1)メートルの物質で炭(墨)の一種です。軽くて丈夫、電気や熱を良く通すなどの特性があることから、二酸化炭素(CO2)の削減に貢献する軽量で高強度の複合材料などを作成するときのフィラー(充填剤)原料としての用途が期待されています。ところが、水を溶媒にするCNTインクが主流のため、油の性質がある有機溶媒に溶けやすい熱可塑性樹脂にはなじまないことが良質な複合材料開発の妨げになっていました。
 今回開発された有機溶剤インクは多くの熱可塑性樹脂と混合できるほか、樹脂の一部は自身がCNTの分散剤となることも明らかになりました。また、この樹脂をフィルム状に調製すると、従来の分散法よりも電気が約3倍も流れやすく、熱は約1.3倍伝わりやすいことが分かりました。
 さらに人工知能(AI、機械学習※2)技術を使い、CNTのインク化に関わる化学パラメータ(変数)を推定し、溶媒内の分散特性を高精度に予測可能なモデルを構築することにも成功しました。このことは、経験と勘に頼らないCNT溶剤インクの設計指針の確立に向けた第一歩といえ、マテリアルズ?インフォマティクス※3(統計分析などを活用した情報科学)利活用の観点からも極めて意義深いものと考えられます。

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本研究成果は、ドイツWiley社が出版する学術誌「アドバンスト?マテリアルズ?インターフェイスィズ(Advanced Materials Interfaces)」(外部サイト)で1月17日オンライン公開されました。

用語解説
※1)カーボンナノチューブ(CNT)
炭素原子で構成される一次元のナノ炭素材料。グラファイト(黒鉛、鉛筆の芯の素材)を円筒状に丸めた構造をもつ。層が単一の単層CNTと、円筒が入れ子構造となった多層CNTがある。

※2)機械学習
人工知能(AI)技術の一部で、入力されたデータに基づき、コンピュータが学習を行うことでデータの背後にあるルールやパターンを発見する手法。

※3)マテリアルズ?インフォマティクス
材料に関する実験やシミュレーション結果などのデータを情報科学や統計学の手法を用いて解析することで、効率的な材料探索や科学的な知見の発見につなげることを目的とする分野。